山口によると、ロボットはよくできていた。だがあえて「想定外の事態」を作りメンバーを動揺させて反応を見たのだという。宇宙では想定外は日常茶飯事。気持ちを切り替えて、時間内にできることを判断し、行動に移せるかどうか。
審査員がうなった、油井飛行士のポジショニング
この指示に戸惑い、なかなか動き出せないメンバーの中で、抜群の対応力とフォロワシップを見せたのが、2009年に宇宙飛行士候補者に選ばれた油井亀美也飛行士だったという。
そのとき、リーダーは別にいたが、油井はできること、できないことを切り分けて優先順位をつけ、『こうしたらどうですか?』とメンバーに工程案を提案した。その案に従ってチームが動き始めると、油井はさりげなく引き下がった。リーダーを立てて、フォロワの立場に戻ったのだ。
「見ていた審査員はうなりました。状況が変わったときの対処能力、問題点の整理。油井さんは自衛隊出身で、しかも部下を指揮する幹部自衛官でした。優先順位づけを徹底されてきた経験を駆使したのでしょう。でも、そのままリーダーシップは執らずに、あえて補佐役に徹した。その『ポジショニング』が絶妙だった」
就職試験ではとにかく目立ちたいと、自分の手柄をアピールしがちだ。だがその誘惑に負けないバランス感覚を、審査員はきちんと見ていたのである。
宇宙飛行士たちの「一発芸」
閉鎖試験中は幾度も変化を与えて揺さぶりをかけ、ファイナリストの「素」をあぶり出していった。極め付きは「一発芸」。「自分の特技で場を和ませろ」という課題が出た際、新人宇宙飛行士の大西卓哉さんが劇団四季の「夢から醒めた夢」をひとり何役かで演じ、大ウケしたことは過去の記事で書いた。
このときの様子をモニタールームで見ていた山口は、大西を見る審査員の目に変化があったという。その真意を尋ねると「それまでの大西さんは、つねに高成績を収めていました。その一方で、彼の行動があまりにもきれいすぎたんです」と意外な答えが。「全日空の副操縦士の大西さんは、何でもスマートにそつなくこなす。もっと感情を表に出したらいいのにと思っていたんです。単に『よくできる人』じゃない部分を」
逆に言うと、「できるだけ」の人はよくないということだろうか?
「どんなに能力が高くても、何を考えているかわからない相手に対して、命を預けられますか?結局、相手を信用できるかどうかがカギです。だから『自分はこんな人間です』と殻を破り、自分をさらけ出すことが大事なんです」」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら