外国人と仕事をする際、まず欠かせないのは語学力だ。だが語学が堪能でも考え方や生活習慣の違いなどに戸惑い、なかなか溝が埋められないと感じたことはないだろうか。
それは、宇宙飛行士の世界でも同じだ。国際宇宙ステーション(ISS)では、米国とロシアの宇宙飛行士が2000年から共に生活し始めた。かつて対立していた2大国は歴史や文化が異なるだけでなく、宇宙船の設計思想や訓練方法も対照的だった。
世界中に「アメリカ村」をつくる米国
では、どのように相互理解を深めているのか。まず、アメリカは異文化対応で独特のアプローチを取る。世界のどこにでも「アメリカ」を作ってしまうのだ。
たとえば日本の米軍基地内にはアメリカンスクール、米国の食料品店、ゴルフ場まである。同様に、ロシア人宇宙飛行士が生活し訓練するモスクワ郊外の「星の街」には、訓練で滞在する米国人用にNASAコテージを作ってしまった。コテージ地下にはトレーニングジムやバーがあるが、ジムにNASAで使っている同じ器具が、バーには米国製のビールまでそろっている。
これでは「異文化」理解は難しい。なぜならロシアの訓練はNASA訓練と対照的であり、米国人の流儀は通用しないからだ。訓練は軍服を着た「ロシア宇宙開発の生き字引」のような教官によってロシア語で行われる。NASAのようにマニュアルはなく、授業は主に口頭と板書。試験も基本的に口頭だ。通訳を使う米国人もいるが、ロシア語で会話しなければ、自国の技術が詰まった宇宙船の操縦知識をあなたに授けようという信頼関係は築けないと言われる。
そこで2000年から始まるISS長期滞在のために、NASAは思い切った訓練を導入した。NASA宇宙飛行士を米国文化から切り離し、ロシアに約6週間「没入」させるのだ。徹底的にロシア語を習得させ、さらに異文化を理解させる。名付けて「ロシア語没入訓練」。日本人宇宙飛行士もこの訓練に参加している。
たとえば2015年にISS長期滞在が決まっている油井亀美也宇宙飛行士は、2012年に参加した。宇宙飛行士になる前、航空自衛隊で戦闘機パイロットも務めた経験を持つ油井は、ロシアに対して「行動が理解できない」「不可解な国」という印象も持っていたという。だが「没入後」は激変。ロシアが大好きになり「よく知らずに一方的に嫌った自分を恥じた」とまで語っている。
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