晴れ舞台で活躍するスターには、必ず影で支える人がいる。ISS(国際宇宙ステーション)で宇宙飛行士たちが安心して仕事ができるのも、24時間365日片時も目を離さず、地上から見守るサポート集団がいるからだ。
それが管制官からなる運用管制チーム。事故なく運用する彼らの壮絶な戦いぶりは、ほとんど表に出ることがない。
ISS全体で30万点、日本の実験棟「きぼう」だけで1万5000点ものデータが常時、地上に降りてくる。これらのデータから“異常の芽”を素早く摘み取るのが、管制官の重要なミッションだ。
日本には現在約80人の管制官がおり、3交替で筑波にある「きぼう」運用管制室に詰める。通信や熱、宇宙実験などの担当ごとに、宇宙の安全を確保しながら、数多くの宇宙実験やシステムの運用を宇宙飛行士と共同して行っている。
その管制官たちを率いる「指揮官」がフライトディレクターである。その集中力と情報処理能力はすさまじい。
卓上の6つのモニター画面で機器の状態や宇宙飛行士の作業状況を目で追い、耳からは宇宙や地上の管制局間で交わされる交信を、最大16回線同時に聞きながら、的確なタイミングで指示を出す。時には宇宙にいる飛行士から相談事の電話が鳴ることもある。まるで“聖徳太子”だ。
フライトディレクターは、米国、ロシア、日本、欧州の4つの管制局それぞれにいる。協力して作業に当たる一方、各国のフライトディレクター間で熾烈な交渉や駆け引き、つまり「戦い」がある。
その戦いは「宇宙の資源」をめぐる戦いである。ISSのリソース(資源)とは電力、通信、そして何より宇宙飛行士の作業時間。その限られた資源を、少しでも自分たちの実験や作業に割いてもらおうと、各国のフライトディレクターたちが、あの手この手で駆け引きを展開するのだ。
日本で圧倒的な「実戦経験」を誇り、交渉力とねばり強さで、戦いに勝つJAXAフライトディレクターがいる。東覚芳夫(とうかく・よしお)。44歳。
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