管制官の一人として東覚の下で仕事をし、2012年末にフライトディレクターに任命されたJAXAの坂上恵一郎は、東覚の求めるレベルは非常に高いと言う。
「管制官たちに、ストレートに問題点を指摘するんです。最初の頃は管制室内で怒号が飛び交うこともあったほどです。NASAの現場を見てきて、理想のチームに育てたいという思いや責任感がとても強い。
管制官が判断をひとつ間違えれば、宇宙飛行士の安全を脅かしたり、作業が失敗して多額の税金の損失につながることもあることを自覚して仕事に当たってほしい、という気持ちからの発言だと理解できます。
自分も今、フライトディレクターとして厳しく言いたいときもあるが、なかなかあんな風に言える人はいない。うわべだけを見習うのではなく、言外の考えや真意を酌み取って、きぼう運用責任者としての “自分なりのリーダーシップ”とは何か、をつねに考えさせられています」(坂上)。
厳しいのは確かだが、根拠を説明し「これだったら戦える。任せろ」と東覚が納得すれば、必ずやってくれる。その力量はフライトディレクターの中でもピカ一という。そして自らが戦う姿勢を管制官たちに見せることで、その背中から、どういうやり方なら相手を説得できるのかという「戦術」を、学び取ってほしいと期待している。
表だけでなく、“裏回線”も使う
実はNASAのフライトディレクターも、ISSの国際協力時代を迎えて、かつてのような”カリスマ的”なフライトディレクターから、「協調タイプ」に変化している。また、音声だけでやりとりする相手より、実際に顔を合わせ、人となりを知っているほうが、「あいつの言うことなら」という気持ちになるのは、どの世界でも同じ。むしろ厳しい交渉を重ねる相手だけに、顔を合わせておくことが大事だとも言える。
実際に会った相手であれば、裏での相談もやりやすい。実はNASAとの間では全管制官が聞く「表」の回線とは別に、「裏」の回線がある。
“上”に立つNASAフライトディレクターも、つらい立場にある。ISSの取りまとめ役がどんな発言をするかは交渉相手だけでなく、欧州やカナダ含めた全局の管制官に聞かれている。そこで間違った判断をしていると思われたくないため、どうしても保守的な発言にならざるをえないのだ。
しかし、NASAフライトディレクターも人間。要求をはねのけてばかりで嫌われたくはない。そこで、裏回線で根回しや妥協策を相談することもある、というのだ。
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