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セーレン、赤字10億円のユニチカ繊維工場をあえて買った深謀遠慮、会長が語る20年前に再建したカネボウとの違い、半導体や人工衛星の製造に転換

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川田達男/かわだ・たつお 1940年生まれ。62年明治大学経営学部卒業後、福井精練加工(現セーレン)入社。70年代の営業開発部時代に自動車シートを大ヒット。87年に47歳で社長に抜擢される。2011年から代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)。ダイキンの社外取締役も務める(写真:尾形文繁)
繊維不況が言われて久しい。業容が悪化した大手繊維メーカーのユニチカは、祖業の繊維事業からついに撤退を余儀なくされた。その一部を今年1月に買い取ったのが、カーシート表皮材で世界シェア1位、福井県を代表する総合繊維メーカーのセーレンだ。
同社の川田達男会長兼CEO(最高経営責任者)は、再建不可能とみられていたカネボウの繊維事業を約20年前に買収し再生させた「異能の経営者」として知られる。川田会長に赤字工場買収の狙い、そして企業再生の要諦を聞いた。

 

「うまくいっていないのは経営の問題」

――今年1月にユニチカの繊維事業(岡崎事業所、現在はNBセーレンに改称)を買収しました。長年の繊維産業の再編がようやく終わったのでしょうか。

日本の繊維産業は戦前、輸出額の7割超を占める国の基幹産業だった。その頃、カネボウ(旧鐘淵紡績)は売上高日本一の企業だったし、ユニチカ(旧大日本紡績)といえば1964年の東京五輪で金メダルを獲得し「東洋の魔女」と呼ばれた女子バレーボールチームの母体として、当時は誰もが知る名門企業だった。三大紡績のうちの2社をセーレンが買収するなんて、とても考えられなかった。

ところが、70~80年代にオイルショックやプラザ合意が起きて、繊維は輸出競争力を失い、完全に衰退産業となった。セーレンはもともと大企業の下請けで染色加工をやっていた中小企業にすぎず、このとき、いち早く存亡の危機に陥った。

そのため、衣料品から自動車用の内装材に事業を転換し、業界の常識を破ってカネボウの合成繊維事業を2005年に買収した(現KBセーレン)。

当時は合繊メーカー8社だけが糸を生産しており、これ以外にはやらせないという国の政策があった。そのため通商産業省(現経済産業省)や繊維業界の大物から呼び出され猛烈な反対を受けたが、セーレンは強引に国の産業再生機構から買った。原糸からの一貫生産体制を確立し、自動車メーカーとともに海外生産に進出したことで(セーレンもKBセーレンも)復活を果たした。

一方、ユニチカは蓄積した資産を売り、借金をしながらも何とか25年までもったが、繊維工場は立ちゆかなくなり、とうとうわれわれの傘下に入った。

――今回の買収は「ユニチカ側から持ちかけられた救済案件だった」と聞きます。

向こうから「引き取ってくれないか」と話があったが、初めはまったく乗り気じゃなかった。毎年10億円以上の赤字を垂れ流す工場を買ってもどうしようもない。カネボウの事業買収のときは原糸の製造機能が欲しかったが、今さらその規模を大きくするつもりもない。

ただ、ユニチカを支援している金融機関から「もう限界だ」、「セーレンに何とかしてほしい」と強い要請があった。それなら調査だけはしようと調べたら、日本の真ん中の愛知県岡崎市の主要駅まで5分で行ける好立地、さらに32万㎡(約10万坪)の敷地に広大な工場がある。

現地を見に行くと、社員がまじめで人の質もいい。うまくいっていないのは経営の問題だとわかった。土地、建物、人を総合してみると非常に魅力がある。不動産ファンドとの競争になったが、われわれは雇用をしっかり守るという条件で買収の合意ができた。

――土地と人が、なぜそんなに魅力的に映ったのでしょうか?

いまの不動産市場は異常な状況だ。人手不足が深刻で工場を建設しようと思っても、発注から竣工まで7~8年かかる。建築コストもものすごく高い。

(19年に買収した)シリコンウェハーの酸化膜加工を手がける半導体子会社では、現在43億円を投じて福井市内に新工場を建設している。これは27年に完成予定だが、需要が強く生産投資が追いつかない。まだまだスペースが足りないため、岡崎の工場を活用できるのは絶好のチャンスだ。クリーンルームを造り、増産に対応していく。主力の自動車内装材事業や新規事業の超小型人工衛星でも仕事が増えている。

ユニチカは500人の従業員をコストと言っていたが、これは大事な資産だ。人手不足が深刻な中で、新規事業をやるにも人材は必要。半導体、自動車、宇宙向けに早速どんどん仕事を転換してもらっている。

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