宇宙飛行士といえど、技術的な話、仕事の話だけしかできない人間は面白みがない。趣味が豊かで冗談を言い合える。つまり、「一緒にいて楽しいヤツ」であることが重要なのだ。
さらに大西には『ロシア流の考え方』についても発見があったという。「外見は古くてぼろぼろの建物が多い。でも中に入るとちゃんとリフォームされていて、きれいで使いやすい。ISSの往復に使うソユーズ宇宙船も、外側は古いが中は改良が繰り返されている。古い物をメンテナンスしながら長く使うのが彼らの文化なんだと、さまざまな局面で納得しました」(大西)。
ソユーズ宇宙船やロケットは、約半世紀前のガガーリンの時代から改良して使われている。でも宇宙船だけそうしているわけでなく、彼らの物に対する考え方が背景にあったのだ。「日本人的な、新しいものがいいという考え方にも一理ある。でもロシア人からも学ぶべきことがある」と大西は実感したという。
なぜ、そこまでの異文化理解が必要か?
実は、ISSに滞在するすべての宇宙飛行士が没入訓練を受けられるわけではない。もちろん体験する価値があることは理解できるが、時間も予算も必要なためだ。それだけの投資を行って、あえて異文化に没入させる訓練の意味を改めて大西に聞いてみた。
「割り切って仕事をするなら、必要ないかもしれない。でも仕事のクオリティを上げるうえでは必要です。たとえば2013年4月までに35チームがISSに長期滞在しています。ロシア人とアメリカ人が一緒に食事を取り、うまく協調しているグループもあれば、食事を別々に取るチームもある。
たかが食事と思うかもしれないが、その背景には食文化の違いがある。たとえばロシアでは1日で最も大切な食事は昼食で、しっかりと食べる文化があることを今回の没入訓練で知りました。ロシア人の食文化や1日の生活の流れを尊重せずに、昼食をさっさと済ます自分たちの習慣と異なるからと否定すれば、チームは必ずしもいい方向に行かない」と大西は考える。
大西の同期にあたる油井も、「語学と歴史と文化を理解することは、異文化理解の3本柱だ」と主張する。
考え方を正しく知るには、その背景となる歴史や文化を知る必要がある。ISSには15カ国が参加しさまざまな文化が交錯する。真に理解しあってチームのまとまりを出すには互いの文化を尊重し、いいところを見つけて評価するのがカギなのだと。
そして緊密なチームワークを構築できるかどうかが、仕事を効率的に進めISS全体で成果を出すか否かを左右する。そのことをISS参加国が認識しているために、異文化理解やチームワーク構築の訓練が頻繁に行われていると言えるだろう。
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