"新人"宇宙飛行士が体得した、異文化理解 実は熱いロシア人、真に打ち解けにくいアメリカ人?

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そこまで人を変える「没入訓練」とはどんな訓練なのか。2013年2月初めから訓練を受けた大西卓哉宇宙飛行士は、「没入して初めて見えてきた文化や生活習慣の違いがあった」という。さっそく詳細を聞いた。

24時間、ロシア語にどっぷり浸る

大西卓哉飛行士は2011年7月に油井亀美也、金井宣茂と共にJAXA宇宙飛行士に認定された新人宇宙飛行士だ。

全日空のパイロットから宇宙飛行士に転じた大西

前職は全日空のパイロット。宇宙飛行にはまだ任命されていないが、ISSのリハーサルと言われる海底訓練にも自ら手を挙げるなど、積極的にさまざまな訓練を行っている。2013年2月上旬から6週間、ロシア・モスクワの一般家庭にホームステイしながら、ロシア語没入訓練を受けた。

訓練は24時間ロシア語漬けだ。朝9~13時が教師とマンツーマンでの授業で「ロシア語没入」。午後は週3回、博物館や美術館、バレエやオペラ鑑賞。または買い物や銀行などに出かけて「文化没入」。18~19時に帰宅し、ホストファミリーと食事をしながら、会話を楽しむ。その後は、膨大な宿題を3時間ほど。大西飛行士によると、「受験生に戻ったかのような生活」だ。

その内容を詳しく聞くと、いかに激しく「没入」しているかがよくわかる。朝9時から午前中4時間の授業は文法や会話、映画などの教材を使ってリスニングの練習など、一般的な語学のレッスンだ。

休憩のペースは自分で選べるが、大西は2時間を1コマとして間に5~10分の休憩を入れただけ。授業はモスクワのアメリカ大使館の一室を借りて行われたが、大使館職員に「おまえは休まないのか!?」と驚かれたという。米国人飛行士は1時間ごとに「ちょっと休もう」と休憩していた人も多かったらしいのだ。

午後の文化没入がまた”スパルタ”だ。モスクワにはクレムリン博物館や歴史博物館などの博物館や美術館が多数ある。大西の先生はロシア文化に高い誇りを持っていて、3~4時間ずっと熱心に解説を続けた。大西は「だんだん意識が朦朧としてくる(笑)」とともに「逆の立場だったら、日本文化に対してこれほど熱意と知識を持って語れない」と、恥ずかしさをも覚えたという。

ホストファミリー宅に帰ると、夕食を食べながら「今日はどこに行った?」などの会話を楽しむ。もちろんロシア語だ。ロシアの家庭には核家族は少なく、大西がステイした家庭でも、おばあちゃんが社会主義時代の話を聞かせてくれて、生きた歴史の勉強になったという。

なぜ初対面で笑う必要があるのか?

NASA訓練ではロシア語の学習にかなりの時間が割かれている。たとえば基礎訓練では年間200時間がロシア語の学習で、これは飛行機操縦訓練に次ぐ多さだ。だが米国でロシア語を学んでも自宅に帰れば家族がいて、アメリカ人なら英語で、日本人は日本語で会話してしまう。つまり、完全にロシア語にさらされる環境ではないのだ。だからこそ、「ロシアに行き、自分の文化的な背景を捨ててロシア語に浸るのは効果的な学習法だ」と大西は実感する。

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