
「自分が改姓する決断はできなかった」(40代男性)
「配偶者に改姓を強いたことは今でも申し訳なく感じます」。首都圏の会社で働くサイトウケンイチさん(40代男性、以下すべて仮名)は、結婚した15年前を振り返り、そう漏らす。
どちらが改姓するか、プロポーズをするまで妻と話したことはなかった。「改姓について深く考えず、妻は姓にこだわらないと勝手に思い込んでいました」。
ただ、妻は生まれ持った氏名で仕事のキャリアを築き、その氏名で出した著作物もある。婚約直後は改姓を受け入れる様子だった妻も、改姓によるデメリットや名前への愛着について、徐々に言葉にするようになった。どちらが改姓するのか。2人で何度も話し合ったが、結論は出なかった。
改姓は子どもを売りに出す感覚
結婚後に新しい仕事を始める予定だったケンイチさんにとって、改姓による仕事上のデメリットは多くなかった。だが周りの目は気になった。ケンイチさんは地方出身。男性であるケンイチさんが改姓したと知れば、周囲は詮索するだろう。
「将来地元に戻る可能性も考えると、“普通でない人”とレッテルを貼られるのは避けたい気持ちがありました」。事実婚は、法的保護を受けられないことや、堂々と『結婚した』と言いにくいことから、選択肢にはなかった。
決定打となったのは父親の思いを打ち明けられたことだった。
ある日、父親は「息子が改姓するということは、お金がなくて子どもを売りに出すような感覚だ。ケンイチにそのつもりはないんだよな」と確認してきた。聞くと、実際に昔はそういうことがあったという。「衝撃を受けましたが、父の思いも理解はできました」。
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