一発芸は、実は過去の選抜試験でもたびたび行われている。もうひとり「伝説」に残っているが野口聡一氏だ。
「一発芸を見せて」と面接官の毛利衛氏に突然言われた野口飛行士は、目の前にいる本人の物まねをして見せるという“大勝負”に出た。毛利氏が宇宙から帰還後、手を振りながらさっそうと歩く場面を再現すると、面接官らは大爆笑したという。
「緊張する面接で、とっさに目の前の面接官の物まねをして笑いをとる。その状況判断力と度胸に驚いた」と毛利氏は語っている。
若田飛行士が”伸びた”理由
山口氏は宇宙飛行士の選抜基準を作るにあたり、極秘中の極秘とされる過去の資料を徹底的に読み込んだ。
山口にはひとつの狙いがあった。国内外でその能力が高く評価される宇宙飛行士界のエース、若田光一宇宙飛行士が選ばれた際の選抜手法を参考にしようと思ったのだ。
だが、意外なことに選抜時の若田飛行士は飛び抜けて高評価を得ていたわけではなかった。すべての項目で平均点以上をキープし、バランスのとれた成績と総合力で選ばれていたのだ。
なぜ、当初は「それほど飛び抜けた存在ではなかった」若田飛行士が、「日本のエース飛行士」と言われるまでに頭角を現したのか。
山口は、「与えられた訓練をこなす以上の、『自分で考える力』が重要」と言う。
自分がどうなりたいのか、そのために必要な能力は何か、自分に欠けているのは何か。若田飛行士はつねにどうしたら能力を上げられるか考え、自分が訓練官になったつもりで、訓練を自らの“意思で”構築する。そして自分に必要だと思ったら、「訓練を追加して欲しい」と訓練担当に頼み込む。だから宇宙で予定通りにいかないトラブルが起こったときの応用力が、ずば抜けて高い。
2009年に宇宙滞在から帰還後まもなく、若田飛行士は「次は船長を目指したい。そのための養成計画を考えて欲しい」と頼んできた。「もう次のフライトを考えているのか」と山口は驚きつつ、NASA宇宙飛行士室のグループ長やJAXA宇宙飛行士グループ長といったマネジメント業務を積極的に経験させた。そして船長に任命された後も、予定外の訓練を次々提案してくる。山口曰く、若田は「努力の天才」なのだ。
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