新しい訓練を自ら開拓していると言えば、野口聡一宇宙飛行士だ。
「日本で、“機長”としての航空機操縦訓練をやりたいと提案してきたんです。NASAの操縦訓練では日本人宇宙飛行士はどうしても機長席に座らせてもらえず、船長の指示に従う訓練しかできない。船長として飛行機を操縦できる訓練をしましょうと」(山口)。
この提案にほかの日本人宇宙飛行士も賛同。野口飛行士は、機長資格で操縦訓練を行う日本人宇宙飛行士第1号になった。この操縦訓練では、NASA訓練では経験できない飛行プラン、トラブル対処、離着陸の決定権を日本人飛行士が持つことができる。「それは船長として必要な技量。おそらく野口は次の宇宙飛行でコマンダーになりたいと目指しているのでしょう」と山口は言う。
宇宙飛行士が「化ける」瞬間
こうして宇宙飛行士は、資質を磨き能力を開花させ、活躍できる宇宙飛行士に“育って”いく。
長年、宇宙飛行士たちを取材している筆者は、選抜試験を経て選ばれた記者会見からその成長を見ていると、ある時、内側から宇宙飛行士オーラが出て突然、「化ける瞬間」があるように思う。たとえば前回紹介した星出飛行士は、2回目の宇宙飛行を終えて、心身共に見違えるほどたくましくなったように感じた。
山口さんは化ける理由をこう話す。「自分ひとりの力では限界がある。多くの支えがあって宇宙に行けるのだと、頭でなく、心で理解した瞬間に『本当の宇宙飛行士になる』のだと思います」。
世界一厳しい選抜で選ばれた日本人宇宙飛行士も、訓練初期はついていくのが精いっぱいで、周りを見る余裕がない。でも「訓練で行き詰まって自分一人でどうにもならないとき、インストラクターが親身にアドバイスしてくれたり、宇宙に行ってから管制官やエンジニアたちが自分の作業のために寝ないで手順書を書いてくれたり。そうして支えてくれる周囲の人たちの努力や苦しみがみえたとき、その期待に応えたいと心から思うようになるんです」。
確かに、人は「自分のため」という理由だけでは頑張れないのかもしれない。チームの支えに感謝し、その気持ちに報いようと頑張り、力をふりしぼる。そのときはじめて、人は内在していた能力を爆発的に開花させ、「化ける」ことができるのだろう。(=敬称略=)
(撮影:山内信也)
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