「さん付け」しても風通しはよくならないワケ 大切なのは呼び方でなく「上位者の人格」だ

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このころ、不思議なことが起こっている。労働組合はどこに行ったのか。おおよそ、賃上げにしても、労働条件にしても、労働組合が、時に会社側と激突しながら、要求してきた。

数十年前までは、各企業の労働組合を束ねる産業別労働連合会があり、さらにそのうえに、日本労働組合総評議会(総評)が、また、全日本労働総同盟(同盟)が、すべてを仕切っていた感があった。そのため、ときに激しく会社側とぶつかり、長期のストを決行したりしていた。

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メーデーも盛んに行われた。皆、赤い鉢巻をして「労働者よ、団結せよ」などとシュプレヒコールをしながら、街中を歩き、気勢を上げていた。私は、その労働組合の過激な活動に批判的で、新入社員の時、労働組合の支部長が、滔々(とうとう)と説く「労働価値説」を面罵したことがある。また、労働者の待遇改善が主目的にもかかわらず、安保反対闘争など、折あるごとに政治的な目的で、労働者を狩り出したりしていた。

労働組合や経済団体の存在意義が問われている

そういう労働組合の愚かさは、多くの人たちが次第に思うところとなり、労働組合活動は、下火になっていく。そして、ついには、総評は、1989年に解散(現・日本労働組合総連合会)、同盟も1987年に解散(現・日本労働組合総連合会)ということになった。このような組合活動の失敗は、政治への介入に尽きる。若い組合員が、強制的に参加させられ、しかも、政治信条が異なるにもかかわらず、デモへの参加を強制される。次第に労働組合活動に参加しなくなり、ついに解散ということになった。

とは言え、多くの企業には、依然として労働組合が存在している。総評や同盟からの強い指示がなくなった今日、いまこそ、企業内労働組合は、それぞれの企業の特質にあった、賃上げとか、働き方について取り組むべきではないのか。一体全体、労働組合は、いま、労働者を守る矜持があるのか。もともと、そのようなものはなかったのかもしれないが、それだけに、いまこそ、思い改めて、労働者のための働きをしたらどうなのか。

いまは、政治が経営に入り込んでいる。首相が、経団連に出かけ、経済同友会に行き、日本商工会議所を訪ねて、賃上げを要求する。いわば労働組合の頭越しに、政治家と経営者が賃上げ交渉をしている。

あるいは、政府が「働き方改革会議」をもって、労働者の多様な働き方を議論している。これは、労働組合もさることながら、経済団体、経営者たちは、いったいなにを考えているのか。それぞれの自立心、自尊心はないのかと訝しく思う。

社員の働き方などは、社長が決めればいいことではないか。政治に主導される経営、政治に主導される組合活動。恥ずかしくないのか。政治家に言われなければ、経営者は動かないのか。組合は、対応しないのか。

賃上げを首相が財界3団体に直接要求することに憤りを感じない労働組合は、絶滅したほうがいいと思う。また、働き方改革をみずから行えない経営者の集まりの経済団体は、解散したほうがいいのではないか。

労働組合も、経済団体も、いま、その存在が問われていると思うがいかがだろうか。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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