松下幸之助のそばで仕事をするようになってから確か2~3年した頃に、米国からハーマン・カーン氏が来ることになった。「日本に行くからには松下さんに会いたい」ということだった。それならば会いましょうということになったのだが、そのハーマン・カーン氏が松下に会う1週間か10日ほど前になったころ、松下は私に突然こう尋ねた。
「今度、ハーマン・カーンという人がやってくるんやけどな、きみ、どういう人か知ってるか」
唐突な質問だったが、私は何の躊躇もなく、立て板に水で巧みに答えることができた。
「ハーマン・カーンという人は米国のハドソン研究所の所長で、未来学者です。そして21世紀は日本の世紀だと言っている人です」
有名人だったため即答できたが・・・
なぜ即答できたかといえば、当時わが国の政治家が、このハーマン・カーン氏の「やがて来る21世紀は日本の世紀になるだろう」という言葉をしきりに引用しており、それが新聞に載ったり、テレビで放映されたりしていたからである。
私の胸には、突然の質問に即答できた満足感が広がっていた。いつもは「ちょっと調べてきます」などと言ってモタモタしているのだが、今回はきちんと答えられてよかったと、いささか得意なほどの気持ちだった。
松下は私のそのような答えに軽くうなずきながら、「そうか、わかった」と返事をしてくれた。私はおおいに満足して、それから午後は気分よく過ごしていた。ところが翌日になると松下は再び、「きみな、今度、ハーマン・カーンという人がわしに会いに来るそうやけど、どういう人か、きみ知ってるか」と聞く。
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