松下幸之助が「人使いの名人」と言われた理由

上から目線で命じることはなかった

「人使いの名人」と言われた松下が、ある日、私にある仕事を命じた(撮影:高橋孫一郎)

「『PHPのことば』という、わしの書いた本があるやろ。改訂版を出したいと思うんやけど、ずいぶんと前に出した本やから、一部修正したり書き直したりせんといかんところもあると思うんや。きみ、すまんけど、読んで、そういうところがあれば教えてくれんか」

『人間を考える』という本をつくるために人間観の勉強会を始めて、3週間ほどたった頃であった。私は松下幸之助からこのような指示を受けた。

憤懣やるかたない思い

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座敷で、正座しての仕事である。足が痛い、暑い、蝉がうるさいという三重苦に悩みながら、毎日多忙を極めていた私は、どうしてこんなときにそのようなことを私に言いつけるのであろうかと、憤懣(ふんまん)やるかたない思いであった。

しかも「いつまでにやればいいでしょうか」という私の問いには、「そうやな。なるべく早いほうがええな」という返事である。

私が松下のために毎日遅くまで仕事をやっているのを承知のうえで、なんという仕事の与え方かと、内心不満に思っていた。人使いの名人と言われながら、こんな指示を出すのか、どこが名人であるものか、とさえ思った。しかしやむを得ない。やらなければ仕方がない。

『PHPのことば』は、昭和28(1953)年に出版されたものである。人間や社会のよりよき繁栄、平和、幸福を実現するための理念と方策について、松下の考えを凝縮しまとめたもので、「繁栄の基」「人生の意義」「自然の恵み」「調和の本質」「人間の目的」など40項目、400ページにおよぶ大著であった。

それから一週間は徹夜同然の毎日であった。

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