松下幸之助は、繰り返し同じ質問をした

愛情をもって尋ね続けることで部下を育成

「待てよ。松下が同じ質問を繰り返し、そして私が同じ答えを繰り返している。それは、自分が質問したことを松下は忘れているのではなく、その質問に対する私の答が不十分だからではないのだろうか。もっと詳細を聞きたい、もっと詳しいことを聞きたいということではなかったのか。そうだ、きっとそうなのだ」

その日、私は仕事が終わると書店に直行した。棚を捜して、ハーマン・カーン氏の書いた『西暦2000年』という650ページの本を買い求めると、急いで研究所に戻り、さっそく読み始めた。しかし、そうとう分厚い本である。飛ばしに飛ばして走るように読んでも、なかなか進まない。

ハーマン・カーン氏がどのような人物か、どういう経歴の人か、どういう考えでどういう主張を持っているのか。なぜ、21世紀は日本の世紀と言っているのか。そのようなことを記録用紙3枚ほどのメモにまとめあげた。夜中の1時半までかかった。

メモの内容を録音

「うん、これでいい。これだったら30分ぐらいの報告ができる。明日の朝にでも聞かれればこれで答えよう、十分にとは言えないまでも今まで以上には丁寧に答えられるだろう」。そう思うといささか心躍る思いであった。さあ、仮眠しようと事務所のソファに横になったけれども、集中して頭を使ったあとは、目が冴えてなかなか眠ることができない。

それならば、と起き上がってテープレコーダーを持ち出し、先ほど記録用紙3枚にまとめたものを録音することにした。しかし、なにせ素人のすることだから、そうスムーズに録音できるわけもない。森閑とした真夜中に録音を始め、結局、明け方の4時半までかかってようやく、そのメモの録音を終了することができた。

松下に会うまで2、3時間の仮眠をとった。翌日、眠たいはずであるにもかかわらず、私は一向に眠いという感じはしなかった。それよりも、松下の車が到着するころから、面白いことに私の心は、昨日とうってかわってなんとかハーマン・カーンという人はどういう人か、尋ねてくれないかという気持ちでいっぱいだった。背広の内ポケットには3枚の記録用紙が入っている。外のポケットには録音テープを潜ませていた。そして時折ポケットの上から触ってみて、「あるある」などと思ったりしていた。

しかし、そういうときに限って、というわけでもあるまいが、松下と話をしていてもなかなかハーマン・カーンが出てこない。私は昨日の憤りの気持ちはどこへやら、聞いてほしい尋ねてほしいと思い続けていた。「忙しくなりますね」「外国人のお客さまがおいでになりますね」と水を向けてみるが、のってこない。ついに正午になってしまった。今日はもう聞かないのかな、さすがに三日連続で聞いたのだからと諦めかけた。

お昼ご飯が運ばれてくるまでのちょっとした間であった。いつものように雑談を始めると、突然に松下が「今度な……」とそう言いかけた途端に私は思わず、ハーマン・カーンという人が来るんですね、と言ってしまった。

「そや。きみ、その人どういう人か知ってるか」

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