100年人生は「戦争くらい起きる」と考えよう 島田雅彦が語る「サバイバル能力」とは

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では、この遊び心は、いったいなにに役立っているのでしょうか?

まず、危機が生じたときに、知恵の蓄積が有効に働くということがあります。遊びのなかから有効な発想があり、それが発明につながっていく。滅びたネアンデルタール人は、咲いている花を見て「美しい」とは思わず、食えないものだから素通りした。彼らは狩りの道具は作れたようですが、首飾りなんかは作らなかったようです。

「ムダなもの」を抱え込んだ者が変化に対応できる

ここでもうひとつ、生き残りの条件が出てきます。それは、ホモサピエンスが、ネアンデルタール人に比べて成長が遅く、一人前の狩人になるまでに時間がかかったということです。

人間は、大人になるのに十数年かかりますよね。特に昨今は、教育を受ける機会を増やしましたから、さらに時間をかけるようになりました。

教育とは、基本的には、明日食っていくためのことばかりでなく、もっと幅広い、役に立たないことも学んでいくわけですね。そのなかで身に付けた教養が、いつ何時役に立つとも限らない。そして、その教養の蓄積によって思わぬ発想が生まれるわけです。

こういった余剰をたくさん抱え込んだがために、環境が激変しても、臨機応変に対応することができた。ここがネアンデルタール人との違いであり、ホモサピエンスの生き残りと繁栄の秘訣だったのではないでしょうか。

好奇心、教育、遊び心。これらは生存に有利に働くということでしょう。われわれもホモサピエンスの末裔なのだから、その条件が未来に変わることはないだろうと思います。

高度資本主義社会のなかで、培われなければならないと言われてきたスキルよりも、もっと多様なものがあるでしょう。金融工学なんかは、利潤を作り出すために磨かれたスキルですけれど、そんなものはすでにAIが最適化してやっているじゃないですか。金融業なんてもう人間がやることはないでしょう。

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グローバリズムの中の「効率重視」がはびこるようになって、よく「文学なんてやってもしょうがないでしょう」なんてイヤミったらしく言われることがあるけどね、それは大きな勘違い。あまりにも時代遅れの考え方ですよ。もっと無駄なこと、役に立たないこと、多様な教養が必要です。それは、100年生きる力にもつながってゆくものだと思います。

まわり道や寄り道が、どれだけその人を豊かにするかということなんですけれど、いまは、学生がレポートを書くにしても、ネットで検索すれば必要情報が瞬時に集まりますからね。それを適当に組み合わせるのがレポートだと思い込んでいる人も多くて、なかなかキラリと光るものは減ってきましたね。

しかし、その中でも枠にとらわれない、独創性のあるものを発掘していきたいと思っています。そのことによって、文学は、かろうじて多様性を保っていられるだろうと考えていますから。

島田 雅彦 小説家

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しまだ まさひこ / Masahiko Shimada

1961年、東京都生れ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1983年『優しいサヨクのための嬉遊曲』を発表し注目される。1984年『夢遊王国のための音楽』で野間文芸新人賞、1992年『彼岸先生』で泉鏡花文学賞、2006年『退廃姉妹』で伊藤整文学賞を受賞。著書は『天国が降ってくる』『僕は模造人間』『彗星の住人』『美しい魂』『エトロフの恋』『フランシスコ・X』『佳人の奇遇』『徒然王子』等多数。

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