パントマイム歴40年の男が説く「やりきる力」

情熱はすべてを動かす原動力になる

――道は下り坂や上り坂のままではない。

藤倉氏:調子のいい時もあれば悪い時もあるんです。そうしたデコボコ道をあきらめずに進むことできたのは、最初に感じたパントマイムへの「憧れ」を持ち続けていたから。マルセル・マルソーが、トニー・モンタナロが、そして永六輔さんが魅せてくれた「憧れ」。特に若いころに感じるものは、ぼくもそうであったように、一生を左右するくらいインパクトのある、人を動かす最も強力なパワーであり、原動力です。

イギリスの諺だと思いますが、「子どもに航海術を教えたければ、方位の読み方や細かい計算方法を教えるよりも、ただ海の素晴らしさを教えてあげればいい」という言葉があります。心が憧れに向かうとき、それに立ちはだかる試練を子ども達は自らの創意工夫で解決しようと喜んで立ち向かいます。不器用なぼくが、何かを伝えるためにできることがあるとしたら、唯一「自分の感動した体験を信じ続けること」そして、それを伝えることだと思っています。

カンジヤマ・マイムの芸には、今まで出会った多くの人たちや、触れた文化、そして感動体験だけでなく、つらかった出来事など、喜怒哀楽が詰まっていますが、見てくださる方に、そのどれか一つでも感じ取って、一人ひとりが自分の道を進んでいくための原動力にして欲しいと思っています。舞台を見てくださる方々にはさまざまな年代の方がいますが、特に若者には、ぼくたちがパントマイムに出逢い、生き甲斐を得たように、ぼくたちの舞台を通して、自分の中にある「感動の種」を発見して欲しい。そして、それが見つかったら、後は信じ続けて欲しい。その踏み出す一歩を、カンジヤマ・マイムは後押ししたいんです。実現していく姿を楽しそうに魅せるのも、舞台に立つ人間の大事な役割だと思っています。

今を掴んで、やりたいことを見つけよう

藤倉氏:ぼくのアメリカのマイムの師匠、トニー・モンタナロ氏の言葉に、「むだをはぶき、はぶき続けなさい。迷ったらとにかく最後の最後までむだをはぶき、これ以上はぶいたら作品が成り立たないというところまでしてみなさい(“Less is best. Less is best. When in doubt, reduce, until its starts to hurt the material.”)」という言葉があります。

ぼくのパントマイム演目の一つである『バイオリン弾き』は、35年近く前の、忘れ難いある個人的な悲しい出来事をもとに、試行錯誤してパントマイムに昇華した作品ですが、最初に作ってから、何度もむだを省いて、削ってを繰り返しています。

エッセンスを凝縮して、真髄を伝える。「簡潔さは機知の精髄である」とは、シェークスピアの『ハムレット』に出てくる一節ですが、これこそがパントマイムの義務であり、また醍醐味であると考えています。身体が動かなくなるその日まで、作品を極める。削り続ける。完成はない。そういう日々が、この先も続いていくんだと思います。

――そして完成することのない道は、終わることなく続きます。

藤倉氏:この40年、目の前のことをこなしてこの道を進んできたので、何か大きなミッションを掲げるということはありませんでしたが、もしかすると、やるべきことというのは、その行動を見てくれたまわりの人たちが決めてくれるのかもしれません。

今、ぼくができることは、ひとえに永六輔さんを始めとする師匠たちから受けたご恩を、パントマイムを通じて若い人たちに返すことだと思っています。早稲田大学や上智大学での講義も、そうした「ご恩返し」の一つとして取り組んでいるつもりです。終わることのない道はこれからも続いていきますが、後に続く人たちの、道標になるようなカンジヤマ・マイムの芸を、これからも皆さまにお届けしたいと思います。

(インタビュー・文/沖中幸太郎)

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