ナイキがマラソン"新記録"を引き出せたワケ "亀田劇場"以上にすごかった「BREAKING2」

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昔、テレビのバラエティ番組で「現役を引退して10年以上経つベン・ジョンソンが追い風を利用したらどのくらいで走れるのか?」という企画があった(「催眠術にかかったらどのくらい速く走れるのか?」というものもあった)。「BREAKING2」に近い企画だが、その本気度と、人類への挑戦という意味ではかなりの温度差がある。日本の取り組みは、非常に“レベル”が低い。

フルマラソンで「サブ2(2時間切り)」を達成するには、5kmを平均で14分13秒のペースで走らなければならない。昨年、トラック1万mでサブ2ペースとなる28分26秒以内で走った日本人選手は25人しかいなかった。マラソンの高速化に日本は大きく遅れている。

「BREAKING2」が開催される数日前に大迫傑を取材する機会があったが、「シューズは進化していますし、選手も科学的なトレーニングをしています。その流れに遅れてはいけません。日本国内の状況では、2時間8分台、7分台止まりだと思うので、もし2時間を切られてしまうと大きな差になってしまいます。同じナイキ契約選手として、うまく(高速化の)流れに乗って、少しでも上に近づいていきたいです」と話していた。

参考記録とはいえ、キプチョゲは42.195kmを2時間00分25秒で走破した。衝撃のパフォーマンスはさらなる高速化を生むことになるだろう。

「サブ2」への挑戦がもたらす現実

2003年のベルリンマラソンでポール・テルガト(ケニア)が2時間04分55秒の世界記録(当時)を樹立した。レース後の記者会見で、「記録は破られるものですから、さらに更新されるでしょう」とテルガトは答えたものの、「マラソンを2時間未満で走るのは不可能であることに変わりありません」と話している。14年前、1万mで世界記録(26分27秒85/現在も世界歴代3位)をたたき出したこともある世界屈指のスピードランナーですら、サブ2の実現に否定的だった。

それが5年後のベルリンで少し変わる。ハイレ・ゲブレセラシエ(エチオピア)が2時間03分59秒の世界記録(当時)をマーク。当時、サブ2の可能性を聞かれたゲブレセラシエは、「20年は難しいと思いますが、それ以降には2時間以内の記録が出ると思います」と答えている。いまから9年前のことだ。

その後もベルリンで3度「世界記録」が塗り替えられ、現在の世界記録はデニス・キメット(ケニア)が2014年に樹立した2時間02分57秒。21世紀に入り、世界記録は7度更新されているが、最大の記録更新は43秒で大幅短縮はされていない。それが今回の「BREAKING2」で非公認とはいえ、世界記録を2分32秒も上回った。ランナーの意識がこの瞬間にパチンと切り替わったはずだ。レース後、32歳のキプチョゲは「良い準備と計画があれば、あと25秒はいけるだろう」と話している。時計の針がグンと進み、「サブ2」のカウントダウンが始まったと言ってもいいだろう。

1950年代、1マイルで「4分」という壁が存在した。学識者のなかには、「人間が1マイルを4分未満で走ろうとすれば死ぬ」と考える者もいたほどだったが、1954年にロジャー・バニスターという医学生が3分59秒4で走ると、数年のうちに4分切りが続出。現在の世界記録は3分43秒13だ。何が言いたいかというと、ナイキの挑戦は、新シューズをPRしただけでなく、マラソンシーンを一気に高める役割を果たしたのだ。

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