宇宙への夢を見失い、取り戻したMIT時代

理由もなく涙が流れ、「宇宙をやるんだ」と決めた

僕はこういうときに意地になる性格だ。懲りずに3度フロリダに飛んだ。2010年4月5日、ちょうど山崎直子さんが宇宙に行ったミッションだった。打ち上げ予定時刻は夜明け前の午前6時過ぎ。その3時間ほど前に、僕らは発射台から16キロメートル離れた川の対岸の公園に陣取った。天気は良好で、風もなかった。夜間の打ち上げはとりわけ美しく感動的だと聞いていたから、ますます期待は高まった。

打ち上げの可否を議論する管制官たちの会話が、公園に中継されていた。それを僕たちはかたずをのんで聴いていた。打ち上げ予定時刻の約10分前、打ち上げの決行がアナウンスされたとき、公園にいる大勢の人たちが大歓声を上げた。残り9分で止まっていたカウントダウン・クロックが再び動き出し、1秒、また1秒、打ち上げまでの時間を刻んだ。

残り20秒くらいから、公園にいる人たち全員でカウントダウンを唱和した。

Ten, nine, eight, seven, six…

メインエンジンが点火され、川の対岸の黒い森の中に、まばゆい火の玉がこつ然と現れた。

… five, four, three, one…. and lift off!

シャトルが残していった噴煙があけぼのに染まった

ブースターのエンジンにも火が点され、目がくらむばかりに増光した火の玉が、夜の闇を切り裂き、ゆっくり、ゆっくりと空に昇っていった。しばらくして天地を揺らす轟音が腹の底に響いてきた。なおもゆっくり、ゆっくりと上昇を続ける火の玉は、しかしいつの間にかものすごい速さになり、ものの数分で西の地平線へと消えていった。

そして僕はふと、自分が泣いていることに気づいた。僕は理由もなく泣いていた。

やがて、シャトルを追うように、東の地平線から太陽が昇った。シャトルが残していった噴煙が朝日に照らされ、桃色に染まった。それを見た頃には、僕の心は決まっていた。

やはり僕は宇宙をやるんだ、と。

大きな力

読者のみなさんは、出来すぎた話だと思われるかもしれない。僕自身もそう思う。時々僕は自分が、誰かによって巧妙に作り込まれた芝居を演じる役者であるかのような感覚に陥ることがある。

運命だ、などと言いたいのではない。僕は神も運命も信じていない。ただ、たとえば地球が太陽の重力という目に見えぬ力によって束縛され、動かされているように、僕も自分の意志を超えた大きな力によって束縛され、動かされているように感じることがあるのだ。

遠藤周作の小説『深い河』にこんなシーンがある。やぼで不器用でまじめだけが取り柄の神学生・大津を、奔放な女子大生の美津子がいたずら心から誘惑し、踏み絵を迫るように信仰を棄てさせようとした。すると大津は泣きそうな顔でこう言った。

「ぼくが神を棄てようとしても……神はぼくを棄てないのです」

宗教を持たぬ僕には神様のことはわからない。しかし、このときの大津の気持ちはわかる気がする。僕が夢を棄てようとしても、夢が僕を棄てなかったのだ。

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