彼はしばらく考えた後、こう答えた。
「それまでに財を築き、早期退職して、南の島に別荘を買い、のんびり暮らすことかな」
熱い言葉を期待していた僕は、ひどい肩透かしを食らったように感じた。口では「それはすばらしいですね」などと話を合わせつつも、心中では(なんてつまらない)と思ってしまった。自分は彼らとは根本的に違う種類の人間なのだと悟らざるをえなかった。そして結局、僕はその投資銀行を落とされた。今から思えば、それは幸運なことだったと思う。
この頃に帰省した際、僕の悩みを見透かした父が、こんなアドバイスをくれた。
「どんな仕事をしてもいい。ただ、将来、自分の息子に誇りを持って語れるような仕事を選べ」
ずしりと重たい言葉だった。父の言うような仕事が自分にとって何なのか、その答えは心の底の奥深くにはすでにあったのだろうが、夢を見失っていた当時の僕は、それを言葉にすることができなかった。
転機
そんな悩みの真最中に、僕はふと、スペースシャトルの打ち上げを見に行こうと思い立った。さんざん悪口を言っても、結局は好きだったのだ。僕は友達と連れ立って、ボストンから飛行機で3時間の距離にある、フロリダ州のケネディ宇宙センターまで行った。
しかし、スペースシャトルほど気まぐれな乗り物はない。2度の事故の後で安全性にとりわけ敏感になっていたから、ちょっとした雨や風でも打ち上げが延期になる。それどころか、冗談のような話だが、ヨーロッパの天気が悪くても延期になるのだ。打ち上げ中に異常が発生した場合に、大西洋を超えてヨーロッパの滑走路に緊急着陸するというシナリオが想定されているためだ。
僕も天気に泣かされた。最初に見に行ったときは、機械のトラブルにフロリダの悪天候が重なり、延期続きで、むなしくボストンに帰った。2度目の旅行ではヨーロッパの天気に泣かされ、またもや見ることができなかった。
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