今回は身の上話をいったん中座して、アメリカの大学院の仕組みや研究、産学連携の状況についてお話ししようと思う。
市場原理で回るアメリカの大学の研究
アメリカの理系大学院生のほとんどは、学費免除(正確に言えば支給)のうえ、給料を月に20万円ほどもらいながら勉強している。「理系」に限らず、経済学や言語学など、研究を主とする大学院プログラムでも同様だ。逆に医師免許(MD)を取るためのメディカルスクール(いわゆる医学部)は研究を主としないのでこの限りではない。もちろんアメリカのすべての大学院にこれが当てはまるわけではないが、少なくともトップスクールと呼ばれる上位数十の大学の多くの博士課程の学生はそうだ。
僕もそうだった。マサチューセッツ工科大学 (MIT)の2012-2013年度の年間の学費は4万2050ドル、おおよそ390万円だ。僕は最初の半年だけ両親に払ってもらったのだが、その後は博士課程を終えるまで一度も自分で払ったことがない。給料はというと、修士学生は毎月約2200ドル(約20万円)、博士学生は毎月2400ドル(約22万円)をもらっている。アメリカではお約束のように年3%のインフレがあるので額面は毎年変わるのだが、現在の価値に換算すれば、僕は計3900万円ほどを6年半のMIT在学中にもらったことになる。
いったいどういう仕組みで一介の理系大学院生がこんな額のおカネをもらえるのか。それはresearch assistantship (RA)という制度だ。手っ取り早く言うと、先生が研究のアシスタントとして大学院生を雇うのだ。RAとして雇われた学生は、学費と給料をもらう代わりに、先生が満足する研究成果を出す責任を負う。
この関係を逆の視点から見れば、先生は学生を1人持つために年間600万円のおカネを払わなくてはならないということになる。
どこからそんなおカネが出てくるのか。それは、先生が産・官・軍などのスポンサーから取ってくる研究費である。アメリカの大学における研究費の主な使途は学生を雇用する人件費なのだ。そして先生は研究費をもらう代わりに、期待される研究成果を上げる責任をスポンサーに対して負う。
まとめると、右図に示すように、アメリカの大学院における研究は、スポンサー、先生、大学院生が、おカネを仲立ちとした市場原理によって動いているといえる。
なお、アメリカの大学院生が学費と給料を支給される仕組みはRA以外にも2つある。ひとつがteaching assistantship (TA)で、これは授業の手伝いをして学費と給料をもらう仕組みだ。もう一つがscholarship、つまり返還義務のない奨学金である。ちなみに日本でポピュラーな返還義務のある奨学金は、英語ではloan、つまり「借金」と呼ばれている。
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