胃が痛む「MITの競争生活」で学んだこと 市場原理で回るアメリカの大学院

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胃が痛む博士課程

無事に雇ってくれる先生を見つけたとしても、必ずしも博士号を取得できるとは限らない。Council of Graduate Schoolが1992年から2004年まで30の大学に対して行った調査によると、大学院入学後10年以内に博士号(Ph.D.)を無事に取得できた学生の割合は57%でしかないそうだ。

では、博士号を取るまでにはどのような関門があるのか。

まず最初に、qualification exam、直訳すれば資格認定試験がある。博士候補生(Ph.D. candidate)たる資格があるかどうかの試験である。これが大変厳しい。僕が在籍したMIT航空宇宙工学科では、落ちても翌年に2度目を受験できるが、3度目のチャンスは与えられない。合格率は学校や学科によって大きく異なるが、MIT航空宇宙では、通過するのは半分程度だと思う。落ちた人は修士号のみをもらって退学することになる。ちなみにMIT航空宇宙での試験の内容は口頭試問とプレゼンテーションだ。僕の年まで筆記試験もあったが、その翌年から廃止された。

これを通過すると、thesis committee、つまり博士論文審査委員会というものを作る。自分の研究をよく理解してくれる先生3人から4人にお願いして、thesis committeeに加わってもらうのだ。半年に1度程度の頻度でcommitteeの先生たちを集めてプレゼンテーションを行い、研究の進捗を報告せねばならない。
Thesis committeeの先生たちを満足させる研究結果を出すと、やっと博士論文の審査が始まる。その最後に行われるthesis defense、日本で言う「公聴会」では、博士課程で行ってきた成果を1時間ほどプレゼンテーションし、先生たちから質問を雨あられと浴びせられる。その攻撃からのdefense、つまり防衛に成功したら、晴れて博士号をもらえるのである。

日本では博士課程の修了要件は論文の本数を基準にすることが一般的だ。アメリカではそのような客観的な基準はなく、すべてはthesis committeeの先生たちの主観で判断される。

アメリカの大学院にはそもそも「学年」の概念がない。卒業の基準は何年大学にいたかではなく、純粋に先生たちが満足する研究結果が得られたか否かであるからだ。だから、先に触れたCouncil of Graduate Schoolの調査によると、大学院入学後5年以内に博士号を取る学生は23%にすぎないそうだ。

要はマラソンと同じだ。マラソンは決められた時間だけ走るスポーツではなく、決められた距離を走るスポーツだ。足の速さはみんな違うから、2時間台で走る人もいれば、5時間かけてゴールする人もいる。もちろん速いに越したことはないが、ちゃんと42.195 kmを走りきれば「完走」の栄誉を受けることができる。逆に何時間走ったところで、1 kmでも足りなければ完走したとは決して認めてもらえない。

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