胃が痛む「MITの競争生活」で学んだこと

市場原理で回るアメリカの大学院

アメリカの産学連携事情

では、具体的にどのような場所から先生は研究費を取ってくるのか。MITが毎年発行している「MIT Briefing Book」にそれが詳しく報告されている。それによると2011会計年度にMITで使われた研究費の総額は6億6000万ドル(約610億円)、先生1人当たり平均して約6000万円で、そのスポンサー別の内訳は下図のようになっていた。

日本でも近年は「産学連携」の必要性が盛んに叫ばれている。しかし、アメリカの産学連携は日本のものとは少々性格が異なるように思う。私見だが、日本の大学に研究費を出す日本企業は、比較的短期間で製品化に結びつく可能性の大きい研究を産学連携で行う傾向が強いように思う。一方、アメリカの大学に研究費を出す企業は、数十年、時には100年のスパンでようやく実現するかどうかという研究テーマにもドカンと研究費を出す。

たとえば、僕の博士課程の研究はボーイングがスポンサーだった。その研究とは、Personal Transportation Systemという、いわば「空飛ぶタクシーサービス」に使うための自動化技術だ。このプロジェクトには僕を含めて2人から3人の学生が雇われていたから、ボーイングはこんな夢物語のような研究に年間2000万円弱を出していたことになる。

僕は博士課程の終盤でドイツの電機メーカーであるシーメンスからも研究費をもらっていた。seedling fundと呼ばれる1年限りの研究費で、額は大学院生の人件費1人分程度。抽象的なビジョンは提示されるが、具体的な目標もノルマも与えられない。研究者に自由な発想で研究をしてもらい、将来に大木となりうる技術のseedling、つまり「苗木」を育ててもらうための先行投資である。

アメリカの長期的な視点で研究費を出す傾向は、国防総省、平たく言えば軍からの研究費にも当てはまる。日本で「軍事研究」と言うと、ミサイルや核兵器など、人をじかにあやめるための、きな臭い技術ばかりが想像されがちだ。しかしアメリカでは、国防総省は短期的には直接軍事とは結び付かない基礎研究にも多額の研究費を出している。

少し古い統計だが、現在国務長官を務めているケリー氏など9人の上院議員から国防長官に宛てた1999年の書簡によると、1950年から1997年の間にノーベル物理学賞を取ったアメリカ人の43%、ノーベル化学賞を取ったアメリカ人の58%が国防総省から何らかの研究資金を受けていたそうだ。

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