宇宙への夢を見失い、取り戻したMIT時代

理由もなく涙が流れ、「宇宙をやるんだ」と決めた

背伸びしたがる年頃の子供が、自分の幼い夢を自己否定することで大人になった気になるのと同じように、この時期の僕は宇宙開発に対して極めて批判的になった。そして批判的な目を宇宙開発に向けてみれば、それが必要とする金額の大きさゆえに、さまざまな矛盾があることが見えてきた。その多くが税金によって賄われているからなおさらだった。

たとえば、10トンの荷物をトラックで東京から大阪まで500キロメートルの距離を運ぶ費用は、せいぜい10万円だろう。同じ重さの荷物を、ロケットを用いて高度500キロメートルの地球周回軌道まで運ぶ費用は、約100億円である。2011年に運用が中止されたアメリカのスペースシャトルは1度の飛行で約1000億円かかった。

そして、日米欧露が中心となって建設され、多数の日本人宇宙飛行士も滞在した国際宇宙ステーションの計画終了までの総コストは、約10兆円と言われている。

もちろん、国際宇宙ステーションで行われている新薬や新材料の研究は、将来的に社会に大きく貢献する可能性を持っているから、10兆円をドブに捨てているわけでは決してない。だが、たとえばそのおカネを貧困層の教育や医療、福祉に使えば、どれだけの数の人を直接的に救えるかと問われば、僕は返す言葉がなかった。

そんなことを考えているうちに、「夢」という言葉は僕の中で霞み、汚れ、薄れていった。「夢」ではなく「現実」を見ることこそが大人になることなのだと思い込んだ。

そうして僕は夢を見失った。

夢を失った末

宇宙への夢を見失った後で、僕は何になろうとしたか。わからなかった。そもそも工学の道に進んだのは宇宙開発をしたかったからなので、工学そのものへの興味も薄れていった。

研究も、勉強も、目に見えて効率が落ちた。頑張らなくてはと思ってもやる気が出なかった。今から思えば恥ずかしいことだが、陰鬱な感情を吐き出すために、平日の昼間から研究をサボって小説を書いていたこともあった。

そうはいっても、就職活動の時期は否応なく近づいてくる。多くの学生が就職活動の直前に慌ててやるように、僕も取って付けたような「志望業種」と「志望理由」を、頭をひねって考えねばならなかった。

たとえば僕はある時期、金融の世界に入ることを真剣に考えたことがあった。宇宙と金融を結び付けるもっともらしい理由も一応はあった。僕の研究テーマは、不確定な環境下で、宇宙機や飛行機の事故・墜落のリスクを抑制しつつ、燃費を最大化して航行させるための制御技術だった。この技術はそのまま、不確定な金融市場で、資産価値の喪失のリスクを抑制しつつ、期待される利潤を最大化して運用することに使える。

インターンの機会を得るために、キャリア・フォーラムに出掛けて行って投資銀行のリクルーターにこの研究を売り込むと、非常にウケがよかった。僕はそれに気をよくし、調子に乗っていた面もあったと思う。ある投資銀行のディナーに呼ばれた際、同じテーブルに座っていた40代のトレーダーにこんな質問をしたことがあった。

「10年後の夢は何ですか」。

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