MBAエリートたちが、"失敗"を急ぐ理由 仏INSEADには、良質な"失敗"が用意されている

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カナダ出身のサミール・ハジー氏は、元シリコンバレーのエンジニア。INSEAD留学前、半年間、アフガニスタンの携帯電話会社に働いたときの経験が、社会起業家として生きることを決意させたという。

INSEAD卒業後、国連開発計画(UNDP)などを経て、2008年に世界銀行などからの出資を受け、社会的企業ヌル・エネルギー社を設立。アフリカのケニア、ルワンダやインドの農村地域など電気が普及していない地域で、照明器具と発電機を普及させる事業を展開している。

INSEAD(インシアード)
フランス、シンガポール、アブダビにキャンパスを有する世界屈指のビジネススクール。1957年、フランスにて創立。The Business School for the Worldのスローガンが示す通り、学生の出身国は80ヵ国を越えており、高い国際性が特色。授業は全て英語で行われるが、3カ国語の語学能力が卒業要件となっている。10ヶ月でMBAの取得ができるのも特徴。1月又は8月入学のプログラムがあり、学生は希望に応じて学期ごとにキャンパスを移動する
(非公式日本語ブログ)

自転車のようなペダルをこぎ、人力で発電する「ペダル発電機」と、そこから充電できるライトを一式で貸し出し、その使用料を支払ってもらうビジネスだ。ヌル・エネルギー社は、2010年、UNDPよりThe World Business and Development Awards(世界ビジネス・デベロップメント賞)を授与されている。

そんな偉大な社会起業家ハジー氏に、吉田さんは、「自分の出身地以外、ましてや環境の整っていない発展途上国でビジネスを行うには、さまざまな困難が伴うと思います。それをどうやって乗り越えればいいですか」、と相談した。

するとハジー氏は、熱く、こう語った。

「僕もINSEADに入った時は、まだ明確なアイデアもツテもなかった。でも『何かしら意義のあるビジネスを起こしたい』という一心で、ただひたすら卒業生や関係者と話をしていった。1年間の在学中に70人以上の人にコンタクトしたんじゃないかな。本当に役立ったのは、そこで培った人脈や得た情報だった。

起業に関しては、『そんなアイデアは通用しない』と否定されることも、しょっちゅうだった。そんなことでいちいちめげていたら、今の会社はないね。大切なのは、自分は何がやりたいのか、何ができるのか、突き詰めて、考えをできるだけ具体的にすること。開発にかかわりたいという思いは素晴らしいけれど、そこでとどまらずに、その先にあるものを見つけないと!」

2人の先輩に出会って、吉田さんの人生はどう変わったのか?

「入学当初は、自分のキャリアからだと開発金融に進むのが妥当なのかな、となんとなく考えていましたが、実際には開発に携わる方法は無数にあること、本気でその道に進むなら、批判や拒絶にめげることなく、何度でも挑戦し続けることしかないこと、そして、自分には、INSEADの卒業生として、心から誇れる仕事をする機会が与えられている、ということを学びました。

INSEADでの社会企業家との出会いが私の人生を変えるかどうかは、今後の自分の踏ん張り次第だと思っています」

思いの先にあるものを、あと数カ月で見つけるつもりだ。
 

佐藤 智恵 作家・コンサルタント 

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さとう ちえ / Chie Sato

1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。公式ウェブサイト

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