U理論とは、「過去や偏見にとらわれず、自分を見つめ直し、新たな未来を創造していきましょう」という理論だ。経営学に哲学や心理学、認知科学、東洋思想まで織り込んでいるという。
簡略化して説明すると、「U」という文字を書くときのスタート地点が、「既存の概念に縛られている自分」、真ん中が「偏見から解放された自分」、そして、最終地点が「新たな未来を創造している自分」だ(詳しくは、「U理論―過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術」(オットー・シャーマー著、英治出版)をご参照ください)。
このU理論を実践するというだけあって、この授業は、他に類を見ないような実践的な学習をする。
たとえば、「粘土で自分の世界を表現する」という授業がある。本当の自分とは何かを、普段とは違った視点から知るための演習だ。
また、あるときのテーマは、「ミラーリングと創造的な対話」。相手の話にしっかりと耳を傾けた後、自分の中に浮かび上がってきたイメージを話す(ミラーリング)。そして、対話の中から新しい視点、解決法を見つけていく(創造的な対話)。
山本さんに最もインパクトを与えた演習は、「Empathy Walk」(自分と正反対の世界にいると思われる人たちの声に耳を傾けましょう、という演習)だった。
演習では、ウクライナ出身の同級生と一緒に、「自分がいる世界とはまったく違う世界」の定義づけをし、経済的に恵まれていない人の話を聞くことに決めた。山本さんは、ボストン中心部のハーバードスクエア地区にいつもいる「新聞売りの男性」のことを思い出した。
男性は、ボブという名前の、アフリカ系アメリカ人だった。ボブさんは、自分のことを聞いてもらったのがうれしかったのか、身の上話を2時間にわたって語ってくれたという。男性はかつて、有名ミュージシャンがワールドツアーを行う際のサポートメンバーだった。
「MITの学生か!こういう授業があるのはすばらしいね。レポートを書いたら、ぜひ見せてくれよ!教育は本当に大切だよ。僕は、貧しくて教育を受けられなかったから、一度失業したら、次が見つからなくてね」
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