話を聞くうちに、ボブさんは、コミュニケーション能力に長けていて、新聞を売るのがとてもうまいのだが、そのセールス能力を生かせていない事実がわかってきた。
生活保護を受けるには、収入がありすぎてはいけないからだ。そのため、一定数を売ると、売るのをやめてしまうしかないという。
山本さんは、この仕組みに疑問を持った。
「社会保障制度には意義がありますが、ボブさんの自立を逆に妨げてしまう一面もあります。ボブさんの能力を生かしながら、同時に生活をサポートしていく仕組みを作り上げるために、社会的企業にできることがきっとあると思いました」
さらにボブさんは、自分よりも恵まれていない立場の人が、ハーバードスクエアを通ると必ず手助けを申し出るようにしているという。山本さんたちのインタビュー中にも、盲目の女性が通りかかったとき、「You need help?」と語りかけた。
なぜわざわざ新聞売りの途中でも助けを申し出るのか聞いてみたら、こんな答えが返ってきた。
「目が不自由な人たちは、どういう世界で生きているのか、自分できちんと理解したいから、時々、手で目隠しをしてみるんだ。すると、とても不安な気持ちになる。そんな不安な気持ちが少しでも和らぐように、手助けするんだよ」
ボブさんは、MITの学生にじっくり話を聞いてもらったのがよほどうれしかったのか、「すばらしい1日をありがとう!」と言って、近くのダンキンドーナツでコーヒーをおごってくれたという。
自分より経済的に恵まれないと思って話しかけた男性は、率先して、「さらに恵まれない人」の助けを買って出ていた。
「ボブさんが、『自分ができる範囲で、率先して人を助ける』というリーダーシップを発揮していることに、感激しました。ボブさんとの対話は、自分が大切にしたいものを再確認させてくれました」
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