カーン・アカデミーという名前を耳にしたことがあるだろうか。
アカデミーというからには学校なのだが、校舎などの実体はない。カーン・アカデミーはインターネットの上だけで存在している学校。だが、本物の校舎もなく目の前に生身の先生もいないこの学校が今、アメリカ、いや世界の教育を変えるのではないかと注目を集めている。
そのカーン・アカデミーを創設したのが、サルマン・カーン。バングラデッシュ生まれの36歳だ。
現在、カーン・アカデミーは世界中1000万人もの人々がアクセスして知識を学ぶ場になっている。ここで提供されるのは3600ものビデオ講義である。
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カーンが、カーン・アカデミーを作った経緯は米国では非常に有名だ。
親戚中で集まっていたある日、幼いいとこのナディアが、算数が苦手だとカーンに告げた。カーン自身はMIT(マサチューセッツ工科大学)で科学と数学のダブル修士号を取得したバリバリの理科系。小学生の算数を教えるくらい朝飯前だ。
何とかナディアの勉強を助けたいと思うのだが、ナディアが住むのはニューオリンズで、彼がいるのはボストン。距離が離れていて、ちょくちょく訪ねて家庭教師をするというわけにはいかない。
そこで思いついたのが、インターネットを利用することだった。カーンは、ナディアとインターネットで接続し合い、その中でお絵描き用ソフトを使って算数を教えることにした。図を描きながら算数を説明し、それをナディアが見るという具合だ。これが2004年のことだった。
そのうち、別のいとこもカーンに教えてもらいたいということになり、カーンはこの画面をビデオで撮って、ユーチューブに上げるようになった。いとこたちが自分の都合のいいときに、ユーチューブにアクセスしてビデオを見ればいいと考えたのだ。
ビデオは、カーンが説明をする声が後ろで聞こえる中、画面上の黒板がどんどん文字や数字、図式で埋まっていくという趣向である。
ナディアは、カーンが横について教えてくれるよりも、このビデオのほうがいいと言ってくれた。算数から始まって、他の科目にも広がり、人体の仕組みとか生物の棲息とか、いろいろな内容でカーンはビデオを作り続けた。
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