今、この場所で成功の数々をすべて捨ててしまいなさい
笹本康太郎さんのハーバードビジネススクール留学生活は、実質、11年4月にボストンで開催された合格者向け説明会から始まった。そのときスピーチをした入学担当官の言葉に、笹本さんは、衝撃を受ける。
その言葉のとおり、「ハーバードに合格したからといって、過去の成功体験に浸っている場合ではない」と実感したのは、9月に入学して初日の授業からだ。
ハーバードの授業は、すべて「英語でのディスカッション」で進められ、成績の半分は「発言点」だ。しかも厳しい評価システムで知られ、卒業できない人が毎年数人はいるという。
笹本さんは大学時代に1年間、アメリカの大学に留学していた経験があり、TOEFLやGMATといった英語のテストでも高得点を上げている。日本人としては、英語は「ネイティブに近い」と言えるだろう。
にもかかわらず、ハーバードでは、「ネイティブではないハンディ」を感じたのだと、笹本さんは言う。
「『900人の同級生の中で、英語の会話力だけを比べれば、僕は下から何番目だろうか』、と思うほど、周りは全員「ネイティブ」なんです。同じアジア人でも、完璧な英語を話します。授業中、自分の考えを英語にすると、本当に伝えたいことの2割も伝わっていないんじゃないかと思うときもあり、もどかしいですね」
英語だけではない。クラスに1人しかいない日本人として、日本関連のことについては、全部、笹本さんに発言する責任がある。終身雇用、年功序列といった日本独特の組織制度から、トヨタのオペレーション、楽天の社内英語化まで、“日本代表”として、付加価値をつける発言をしなければならない。
広告業界で働き、コミュニケーション能力にはある程度自信を持っていた笹本さんも、最初は苦労の連続だったという。
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