ハーバード生も泣く、リーダーシップ論 「今、ここで成功のすべてを捨ててしまいなさい」

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「『僕は、自分の部隊の命を最優先する。僕は、アフガニスタンで友人を二人亡くした。戦場では、正しい倫理観よりも、一緒に戦っている仲間との信頼関係の方がはるかに大切だ』と語ったんです。何よりも説得力のある発言でした」

この授業では、経験を話している学生も、それを聞いている学生も、泣いてしまうこともあるという。

「僕はこの授業を受けるまで、『リーダーが倫理的に判断する』、とは、どこかに存在する正しい答えを客観的に選択することだと思っていました。

でも、この授業を通して、自分の信念を確立し、それをさらけ出すことによって、人を動かすことこそが、リーダーシップなのだということを学びました」

この授業の後、客観的な事実や論理的に正しい内容だけではなく、その背景にある「自分の信念」を堂々と伝えることに注意を払うようになり、発言のしかたや授業への取り組み方が大きく変わったそうだ。

君たちには挑戦する権利と責任がある

2012年5月、笹本さんはハーバードの授業で、最も心に残るスピーチを聞いたという。

「The Entrepreneurial Manager」(起業家精神とリーダーシップ)という授業の最終講義での、ジョセフ・B・ラシター教授のスピーチだ。

この授業では、起業家を目指す学生たちが、いかに事業チャンスをとらえ、世の中に価値を創造していくかを考えながら、「自分らしい起業方法」を模索していく。

ラシター教授は、ハーバードの名物教授。もともと、テラダインという1960年代に創業されたベンチャー企業出身だ。テラダインを、ベンチャーから自動検査装置(ATE)の世界的メーカーに成長させた立役者とも言われている。

笹本さんはこの授業を通じて、アメリカのビジネススクールの出身者の「世の中を変えていく底力」を実感したという。

「学生でも、良いビジネスアイデアであれば、起業をサポートする体制があります。ラシター教授も、教え子の起業を自らサポートすることもあるそうです」

笹本さんは、ラシター教授が、最終講義で学生たちに向けて語りかけた言葉を、心に刻み付けている。

未来はどうなるのか? そんなことは私にも分からない。ただ、一つだけ君たちに約束出来ることがある。それは、たとえ世界がどんなに変わろうとも、私はここにいるということ。ここにいて、いつでも君たちをサポートする用意があるということ。いずれ私がいなくなっても、かわりの誰かが必ずここにいて、君たちの問題にアドバイスを与え、成功を共に喜んでくれるだろう。これは、生涯の保証だ。この保証を使いなさい。そして、あなたにしか出来ない、素晴らしい事にチャレンジしなさい。君たちにはそれに挑戦する権利と責任がある。

 

「僕には、僕にしか出来ないことにチャレンジする権利と責任がある―この『責任』という言葉を重く受け止めています」

ハーバードビジネススクールの一員として、卒業生として、今後、世界を変えるために何ができるか。笹本さんの模索と挑戦は続く。

佐藤 智恵 作家・コンサルタント 

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さとう ちえ / Chie Sato

1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。公式ウェブサイト

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