松下幸之助が「生きた情報」を集められた理由 時間がないから帰れとは絶対に言わなかった

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責任者より部下のほうがいつもいい提案をするようならば、部下のほうが優秀なのだから、そもそも責任者と部下は立場を入れ替えなければいけないではないか。そうではない。部下の話は、何回かに一回いい提案があれば、それで十分なのである。

「それよりも部下が責任者のところへ話をしにくる、その行動を褒めんといかんのや。あんた、ようわしのところへ来てくれた、なかなか熱心な人や、と言うてまずそれを褒めんといかんわけや。その部下が持ってきた話とか提案の内容は、早く言えば二の次でいい。そうすると部下は、それからなお、勉強してどんどん責任者のところへ話とか情報とか提案とか、そういう知恵を持ってきてくれるようになるんや。なんでもいいから部下に知恵を持ってきてもらう。それが大事やね」

愛想でほめているわけではない

ところで、初めの頃、松下が私の話や意見に感心してくれるものだから、私は「天下の松下幸之助に影響を与えたんだ」と喜んでいた。ところがしばらくして気がついてみると、いざ実行に移すときには私の意見など、どこにも取り入れられていない。一向に採用されていないように思われた。

しかし、それでいいのだということが、だんだんわかってきた。もちろん松下は、愛想で褒めてくれていただけではなかった。表面的には採用されていないが、すべての人の意見や話が、松下の心のなかでは活かされていたのである。

松下は自分の考え方を推し進めていくとき、みんなの意見をできるだけたくさん聞き、衆知を集める。その中には反対意見も多いが、しかし、見方を変えると、それは自分の進む道における落とし穴や水たまりを教えてくれているのである。だから松下は、反対意見のほうこそ丁寧に聞いていたと言っていい。よく聞いておくことによって、危険を回避することができるからである。

最終的な決断とは別に、松下の心の中では、あらゆる意見が採用され活かされていたのである。だから褒めてくれるのである。

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