「きみ、いまから来いや!」
松下幸之助からの電話である。もう夕方、とうに5時を回っている。声の調子からあまりご機嫌がよくないことがわかった。これはどうもよくないようだ。とにかくすぐに参上しよう、しなければならない。しかし、何かあったのか。何を叱られるのだろうかと、いささか動揺しながら思いを巡らす。
機嫌の悪いときに、ぐずぐずしていては松下をいっそうイライラさせ、怒りを倍加させるようなものだ。すぐ行くのが叱られるときのコツだと、いつのまにか知恵も身についている。とるものもとりあえず、車に飛び乗った。
部屋の扉を開けて入ると、松下はソファに座っていた。そして、そういうご機嫌の悪いときはたいてい新聞を大きく広げて読んでいた。
「きみは何を考えて仕事をしとるんや」
「こんばんは、遅くなってすみません」と恐る恐る言う私を、いつもの笑顔をまったく見せず、厳しい顔で眉間にしわを寄せ、下からキッと睨み上げながら、「きみは何を考えて仕事をしとるんや。これは何や」ときつい調子で尋ねた。
いつもなら横の椅子に何も言われなくとも座りこみ、やがて一緒に食事をする私であったが、こういう強い口調で切り出されると、座るわけにもいかない。立ったままで叱責を受けることになる。当然、食事も出てこない。激怒しているのだ。厳しい言葉が次々に出てくる。
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