松下幸之助が「生きた情報」を集められた理由 時間がないから帰れとは絶対に言わなかった

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松下は、よくテレビでまげもん(時代劇)を見ていた。そこでわかりやすく銭形平次と、子分のガラッ八の関係にたとえてみよう。「親分、大変だ、大変だ」といって駆け込んでくるガラッ八に、平次が「なんでえ、なんでえ」と聞く。このとき、ガラッ八に“どんな情報でも持って来させること”が大事なのである。

もし平次が「おまえの持ってくる情報はつまらん」と言ったら、ガラッ八は来なくなる。もうああいう親分のところには行きたくない。そう思うのが人情だ。そう思わせたらおしまいである。情報が集まってこなくなる。あるいは、内容の善し悪しを部下が判断するようになってしまう。すると、いちばん大切な情報が漏れるかもしれない。

熱心に聞いてくれるから情報を持ってくる

ところがいつもいつも、親分が「何だ、何だ」と熱心に聞いてやるから、ガラッ八は喜んで飛んでくる。つまらない情報でも、なにはともあれ持っていこう、まずとにかく親分に知らせよう、連絡しよう、報告しようということになる。持っていけば、きっと親分は熱心に聞いてくれる。ガラッ八はそう考える。

その情報の内容がいいとか、つまらないということは、親分が心の中で判断する。部下の目の前で吟味したり、ましてや部下自身のところで判断させないことが重要なのである。指導者にとって大事なことは、そういったガラッ八を何人持っているかである。何回かに一回いい提案があれば、それで十分なのである。むしろ、ひとつの情報を手にいれるためには、それぐらいの努力をしなければならない。

「内容の吟味は責任者の心の中で、頭の中でやればよろしい。まあ、そういっても部下は部下なりに一生懸命考え、研究して提案したり、話をしたりするもんやから、そうアホなものはないよ。経営者は、たくさんの話や知恵の中から、頭の中で知恵を組み合わせ、自分で考え抜いて、ひとつの決断をしていく。そうすれば、たいがいは間違いなく経営を進めていくことができるんや」

また、一見したところ無駄だと思われる情報にも、実はいろいろな利用価値がある。たとえば、このようにして部下の話を聞いていると、同じような話が繰り返し繰り返し届くことがある。これをバカにしてはいけない。意外と難しいことで、私自身も3回くらい同じ話が来ると、「あ、聞いた、聞いた」とつい言ってしまうものだ。

しかし、同じような情報が繰り返し入ってくるということは、それだけ多くの人が関心を持っていると受け止めなければいけない。今これが話題になっていると考えれば、新しいビジネスチャンスにつながるのである。

さて、あなたは何人の「ガラッ八」を持っているのだろうか。

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