プレミア感のあるチョコ菓子を「64円」で開発・販売!ブラックサンダー「至福のバター」工場に潜入、垣間見えた小規模企業の"サバイバル術"
ブラックサンダーとミルクマニアは商品としては別シリーズであり、いわば「ブラックサンダーの”擬態”で売り場を確保した」ようなもの。「ブラックサンダー関連なら置いておけば売れる」という販売店の信頼をバックに、最低限の手間(新サイズのパッケージを作らない)で販売スペースを取ってもらえるという、したたかな戦略といっていいだろう。

もう一つ、「至福のバター」導入のメリットは「売り上げへの貢献」。通常版の売価と1.5倍も違うとあっては売り上げに跳ね返るのも当然で、杉田部長も「1分間で864個カットする工程が同じなら、40円少々の通常版をカットするより、60円台のプレミア商品をカットしたほうが効率が良い」という、実に明快なお答えをいただいた。
ただ「至福のバター」を含めたブラックサンダーは、原価率を相当高めに設定しており、売り上げが伸びても利益率の向上には、さほどつながらないという。それでも、売り上げは「至福のバター」発売時の111億円(2020年度)から165億円(2024年度)に伸びており、このヒットが会社を成長させるエンジンとなったことは、間違いない。
世界的には「カカオショック」(天候不順などでチョコ原料のカカオなどが値上がり)も心配ではあるが、「そうなると他のチョコメーカーも値上がりするだろう」とのことで、ブラックサンダーの全体的な価格優位は、しばらく保たれるだろう。
普通のブラックサンダーより少々お高め(それでも100円あれば十分にお釣りがくる)ではあるが、「至福のバター」は「ミルクマニア」とともに、「ブラックサンダー軍団の最もプレミアな商品(フラッグシップ)」「単価・売り上げアップの起爆剤」として、今後ともチョコ菓子市場で戦っていくだろう。
チョコ菓子業界・大手揃い!どう隙間を縫うの?ズバッと聞いてみた

最後に、経済紙のライターとしてでなく、20年選手のサラリーマン・営業マン経験者(筆者)として、営業・マーケ畑を歩んできたという杉田部長に、素朴な質問をぶつけてみた。
「大手のメーカーに混ざっての拡販は、小規模な御社だと何かと不利じゃないですか?」
国内チョコ菓子市場は、「明治製菓」「ロッテ」がほぼ半分を占有、「グリコ」「森永」が続き、5位以下は数百社がひしめくという、シェアの分布が極端な界隈だ。そんな業界における、メーカーと販売店の関係の一例を見てみよう(※事情のヒアリングはお菓子メーカーではないが、食品メーカーの関係者から行っている)。
売り上げ上位のメーカーは主力カテゴリだけで数100億円単位の売り上げを上げており、販促(販売促進)費用も豊富。新商品発売とともに多量のテレビCMを投下し、スーパー・ディスカウントストアに臨店(営業目的での入店)する営業マン・ラウンダーが、売り場担当者に「この棚いただけませんかね?」と提案しながら、デザイン・製作費だけで数万はかかったであろうPOP(CMタレントの顔入り)を売り場に飾り付けていく。営業マンによっては、売り場清掃のふりをして、自社商品の展示スペースを前に出して、ライバル商品を奥に押しやる営業マンも……いなくはないらしい。
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