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「言葉にならない衝撃」。トランプ政権の反「mRNAワクチン」政策、在米日本人研究者が明かす現場の危機感と不安

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2025年5月、ホワイトハウスで開かれた「Make America Healthy Again Commission」イベントでの、ロバート・ケネディ・ジュニア米保健福祉長官(中央)とトランプ米大統領(写真:ブルームバーグ)
科学や科学技術は、その時々の社会や政治、経済の影響を直接受けることもあれば、社会に変革(時には事件や事故)をもたらすこともある。本連載では、そのリアルな姿を通して今の時代を読み解いていく。

「あまりに非科学的な理由に驚いた」

アメリカのバイオベンチャーで研究者として働く40代の日本人男性Aさんは嘆いた。

8月5日、アメリカの保健福祉省(HHS)のロバート・ケネディ・ジュニア長官は、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの研究開発予算を中止すると発表した。これにより、HHSの下部組織・米生物医学先端研究開発局(BARDA)が支援する22件のプロジェクトが影響を受ける。その総額は約5億ドル(約740億円)。今後、BARDAは新たなmRNAプロジェクトへの支援を行わない。

ケネディ氏は、「mRNAワクチンは、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)やインフルエンザのような上気道感染症を効果的に予防できないことがデータで示されている」と主張している。

しかし、mRNAワクチンの高い有効性や安全性は、複数の大規模コホート研究(ワクチンを打った群と打たなかった群を追跡して結果を比較する研究)で証明されている。それが世界の医学界の常識だ。 

「言葉にならないほどの衝撃を受けた」

本連載では、科学や科学技術のリアルな姿を通して今の時代を読み解いていく

アメリカの別のバイオベンチャーで研究開発に携わる日本人男性Bさんも「こんなにすばらしいテクノロジーを否定するのかと、言葉にならないほどの衝撃を受けた」と明かした。

第1次トランプ政権は、新型コロナのパンデミックでmRNAワクチンの実用化を強力に後押ししたが、第2次政権では方針を180度転換。いまアメリカでは、mRNAワクチンへの逆風が吹き荒れている。

mRNAワクチンは、新しい感染症に対して最も迅速に対応できるのが強みだ。このままでは次にパンデミックが起きたときの対応力の低下につながるだろう。これまで科学的根拠に基づいて進められてきた予防接種政策の混乱も懸念される。

そしてアメリカの研究開発現場を知る2人の言葉から浮かぶのは、サイエンスの基盤そのものが揺さぶられている深刻な事態だ。

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