「勝負運」を引き寄せる仲間やチームの"動かし方" 「強い組織の作り方」は野球と禅の世界にも共通
栗山:野球の試合は9人しか出場できません。たとえば、試合に出ていない選手がベンチにふんぞり返るように座って傍観しているチームなのか、それとも前のめりになって声を出しながら、いつ自分に出番が来てもいいように準備をしているチームなのかではまったく違います。要するに、他人事にするチームはやっぱり勝ち切れないと思うんですよ。
僕はそれをファイターズの監督をしていたときに実感したので、侍ジャパンのメンバーに「自分のチーム」「全員がキャプテン」なんだと伝えたんです。今回のWBCではそれを見事に発揮してくれて、全員が前のめりでやってくれました。
横田:ああ、なるほど。
栗山:準決勝で村上(宗隆)が決勝打を放った場面も、代走で出場した1塁ランナーの周東佑京は、村上が打った瞬間にスタートを切って、驚異的な速さでホームに帰ってきたんですよ。僕としては、打った瞬間に打球が外野を抜けるかどうかわからなかったんですが、試合後に周りのスタッフから「監督、周東はちゃんと準備していました」と聞きました。
周東曰く、「試合に出場する機会は少ないけれど、全員のバッティング練習をちゃんと見ていました。村上は確かに調子悪かったけど、左中間の打球だけは伸びていたんですよ。だから、あの瞬間、抜けると確信しました」と。
横田:1人ひとりが勝つために自分の役割、チームへの貢献に徹していたのですね。素晴らしいですね。
栗山:本当にいいチームだったと思います。準決勝の試合前、(大谷)翔平が周東に「今日は必ずお前の足で勝利が決まる。だから、準備してくれ、頼むな」と言っていたらしいんですよ。そういうふうに勝負の瞬間への準備を全員がしてくれていた。監督の指示を待つのではなく、信頼関係の中で自らが責任を取ろうとし、勝つために仕事をしてくれていた。それが結果的に勝ち切った要因だと思います。
横田:へえ、大谷さんがそう言っていたんですか。改めてすごい選手ですね。
栗山:彼は「勝つために」ということについて本当にクレバーですね。
栗山さんがチェコを訪ねた理由
横田:お聞きしたところによると、栗山監督はWBCが終わったあと、チェコを訪れたそうですね。私はそれを知って感動しました。チェコといえば、WBCの1次ラウンドで日本と対戦し、大差で敗れたものの、その清々しいスポーツマンシップが注目を集めましたよね。
栗山:チェコ代表の監督は神経内科医で、選手も皆それぞれ本職を持ちながら野球をやっているアマチュアのチームです。彼らと試合をしていて、その全力プレーに勝ち負けを超えてものすごく感動したんです。
象徴的だったのは、佐々木朗希の162キロの剛速球が膝に直撃したときの態度です。デッドボールを受けた選手はしばらく悶絶した後、一塁線上を走り出しプレーを続行したんですが、これには驚きました。
そういう彼らの必死さに触れたときに、試合中なのに感動してしまいました。勝ち負けではなく、これがスポーツの原点なのかもしれないと思い、どうしても現地に行ってみたかったんです。