それから8年近くが過ぎた2023年3月の国会で、当時の安倍政権が放送局への圧力を強めていたことをうかがわせる文書が明らかになった。
この日、立憲民主党議員の要請に対し、総務省は「『政治的公平』に関する放送法の解釈について(磯崎補佐官関連)」という行政文書を公開。そこには礒崎陽輔首相補佐官(当時)が、安倍首相の後押しを受け、放送法第4条の「政治的公平」性の判断を、「放送事業者の番組全体」から「一つの番組」でもできるように総務省に迫り、押し切ったプロセスが記録されていた。
市民ネットはテレビ朝日の株主総会で、この行政文書も視野に入れ、「報ステ」への政権幹部からの介入の存否、その経過、会社側の対応について、第三者委員会を設けて調査、公表するよう定款の変更を求めた。
共同代表の田中優子氏は、株主提案に込めた思いをこう語る。
「後藤健二さんは法政大学の卒業生です。2015年、私は法政大学の総長をしていました。『I am not ABE』と古賀さんが掲げた思いは鮮明にわかります。日本では、危険な戦地に行くのはフリーのジャーナリストばかりで、大手の新聞社やテレビ局の社員は行かない。そういう実態も知りました。近年、安保3文書の閣議決定や、南西諸島への自衛隊配備など、戦争の足音が響いています。ここでメディアが自由にものを言えなくなったら、日本はまた破滅します。だからテレビ朝日を応援して、報道の自由を守りたいのです。テレビ局は被害者だと株主総会で申し上げました。政権の介入があったにしろ、なかったにしろ、事実を調査し、公表すれば、将来にわたって視聴者の信頼を得られると期待したのです」
「圧力はない」が抗議もせず
この議案についてテレビ朝日は株主総会に先立だって「ご指摘のような事実は一切ございません」とする回答書を株主に公表したうえで「第三者委員会を設けることは業務を著しく阻害する」と提案への反対を表明した。
実際の株主総会で篠塚浩社長は、次のように答弁した。
「報道機関ですので、政権あるいは与野党を問わず政党、省庁、警察、検察、地方自治体などは大変重要な取材先です。報道局のスタッフは取材活動の一環として、日頃から政治家、官僚を含む多くの方々と面会だったり電話だったりやりとりをさせていいただいている。取材対象とのやりとりなので詳細は申し上げられませんが、一般論として、先方が当社のことに関して感想を述べることはありうると思います。ただ、あくまで取材活動中のやり取りでございますので、それが我々のその後の報道とか、コメンテーターの降板とかに影響を与えるってことは一切ございません」
議長の早川会長も口を開いた。
「官邸からですね、あるいは政権から私どもの責任者のところに何らの圧力も介入もございません。ただ、1点だけ申し上げれば、現場間でメールとかなんかのやり取りはあったかもしれません。しかし、それは圧力とか介入だと我々が受け止めるような情報は当時は上がってきておりません。従いまして、それによってコメンテーターの人事や制作責任者の人事を行ったというのはまったくありません」
一方で、古賀氏の『日本中枢の狂謀』を出版した講談社に抗議を出したのかという質問には篠塚氏が「古賀氏の個人的な見解ですので、抗議文等は出しておりません」と回答した。
古賀氏が告発した内容は、単なる「個人的な見解」で済ませおいていいのだろうか。2015年1月23日に古賀氏が「I am not ABE」と発言した後、テレビ朝日内で誰が、どのような反応をしたのか。古賀氏がコメンテーターを降りる背景でどのような動きがあったのか。これらを知ることは、政権とメディアのかかわりを考えるうえで重要な意味を持つ。不断の検証が必要だろう。
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