これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。
たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。
そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。
子どもながらに「中流より下」と思ってた
「僕は今年で61歳。最初の東京五輪が行われる前年の生まれです。当時は高度経済成長期で『1億総中流』という言葉がはやっていました。ただ『うちは中流よりは下だな』と、子どもながらに思っていましたね」
そう語るのは赤井隆弘さん(仮名・61歳)。北陸出身。2歳ずつ歳が離れた妹が2人いる
現在は関西の国立大学で特任教授として働き、悠々自適に暮らしているが、幼少期はかなり苦労を経験したという。
「『練炭』もしくは『炭団(たどん)』をご存じでしょうか? 練炭は蓮の花のような形のもので、炭団は石炭をすり潰して成型して作る真っ黒い球体です。父親の実家でこれらを作っていましたが、お察しの通り、当時から使っている人はごくわずかで、斜陽産業となっていました。だから、『うちは中流よりは下だな』と思ったわけです。
あと、僕は小学5年生になるまで牛肉を食べたことがありませんでした。親からは『牛肉は赤身で脂がないから』と言われて育ったのですが、初めて食べたときは『いや、脂あるじゃん!』と思ってしまいましたね(笑)」
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