国立大を「授業料値上げ」に追い込んだ「真犯人」 大学はただ「ピーピー騒いでいるだけ」なのか

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そして今度は、授業料の値上げである。

今年3月、文部科学省の審議会で、慶應義塾長の伊藤公平委員が、国立大学の授業料を、私立大学と同程度の約150万円まで引き上げることを提案したという。現在の約3倍である。「大学教育の質を上げていくためには、公平な競争環境を整えることが必要」というのが、その理由だ。

「市場で競争すれば、質が上がる」。したがって、「質を上げるためには、政府が強権を行使して、競争的環境を作り出さなければならない」。

この新自由主義という宗教のドグマ(教義)から、我が国はいったい、いつになったら解放されるのだろうか。現実は、まったくそうはなっていないというのに。

さらに、5月になると、あたかもこの伊藤発言に呼応するかのように、東京大学が授業料の値上げを検討していることが明らかとなった。

国立大学の授業料は、文科省の省令で約53万円という「標準額」が定められているが、相当の理由がある場合は、各大学の判断で、2割増の約64万円まで引き上げることが認められている。東京大学は、この上限額まで引き上げることを検討中であるという。

最高学府たる東京大学が値上げを実行すれば、それが「呼び水」となって、他の国立大学も追随する可能性がきわめて高い。むしろ、それこそがねらいではないかと勘繰りたくもなるほどだ。

想像を超える「新自由主義」の狂気

実は私は、今年4月に配信された「新自由主義と大学改革」という講義(「月刊ニュースの争点」経営科学出版)のなかで、「今後、国立大学の授業料は『絶対』値上げされますよ」と、予言めいた宣言をしておいた。それ見たことかと、「予言的中」を誇りたいところではあるが、そうとも言えない。

第1に、国立大学の授業料値上げは、もうとっくに始まっている。先陣を切ったのは、2018年の東京工業大学だ。続いて、2019年に東京藝術大学、2020年に千葉大学、一橋大学、東京医科歯科大学が、続々と値上げに踏み切った。いずれも、上限の約2割増だ。今後、この流れはすべての国立大学に波及していくだろうと、私は言ったにすぎない。

第2に、すでに文科省は、2020年から、国立大学の授業料を「自由化」することを検討しはじめている。提言しているのは、「稼げる大学」をはじめとする近年の教育改革・大学改革を主導している首相直属の諮問機関、「総合科学技術・イノベーション会議」(通称、CSTI〔システィ〕)だ。国が授業料に「規制」をかけているから、「競争」が生まれない。だから「質」が上がらない。新自由主義の信者である彼らは、そう信じている。この教義が支配しているかぎり、「自由化」は確実に断行されるのだ。

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