国立大を「授業料値上げ」に追い込んだ「真犯人」 大学はただ「ピーピー騒いでいるだけ」なのか

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そこで研究者たちは、「競争的研究資金」と呼ばれる、科学研究費補助金(科研費)などの研究費を、「自己責任」で獲得する必要に迫られている。ところが、これを獲得するためには、非常に煩瑣で膨大な「申請書」を作成する必要があり、そのためだけにかなりの時間と労力を奪われる。それでも、運よく科研費に「当たる」確率(採択率)は、せいぜい30%程度である。当たらなければ、その年はほとんど研究はできないことになる。さらに、運よく当たっても、年度ごとに煩瑣な「報告書」の提出を求められ、これがまた、研究時間を圧迫する。

しかも、教員スタッフの削減によって、大学の運営や学生の教育のために割かねばならない、教員1人当たりの時間数や業務量も増えている。さらに加えて、大学は「外部評価」によっても運営費交付金の額が変動するため、各教員は、すべての担当授業に関するきわめて詳細な「シラバス」の作成、その度重なるチェックと修正、年次の教育・研究活動に関する報告書の作成や自己評価、等々といった膨大な「雑務」、つまり「研究でも教育でもない業務」に追われている。

文科省でさえ認めた「大学改革」の失敗

かくして、大学、特に国立大学の教員は、研究時間と研究資金の枯渇にあえぐこととなった。2022年の文部科学省の調査によれば、大学教員全体の研究時間は、2002年度から2018年度にかけて、約65%にまで減少した。アンケート調査でも、約76%の教員が、とにかく研究する時間がないと訴えている。次に多いのが、研究資金の不足で、約56%。後者に関しては、70%以上の教員が、「基盤的経費の不足」を訴えている。

この調査結果が明らかに示していることは、「大学改革」が始まって以降、大学教員の研究時間と研究費とが大幅に奪われ、それが我が国の研究力を減退させたという、端的な事実にほかならない。2000年から2020年にかけて、我が国の研究力は、論文数が世界2位から4位に、上位10%の注目すべき論文数は、4位から10位にまで転落した。20年前の65%しか研究できなくなったのだから、研究力が落ちるのは「当たり前」である。

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