宇宙旅行で「低重力」が人体に与える深刻な影響 生命を維持するための「星間宇宙船」の設計

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地球の陸地では、地球の住人と宇宙のどこかに滞在している人々を合わせた数十億人の食糧供給のための農業効率改善を目指し、多大な努力が払われてきた。一方、宇宙での植物栽培には、まだ多くの課題が残っている。

とはいえ、根本的な問題はなさそうだ。したがって、宇宙農業でも地上の農業と同じく、割り当てられたスペースで見込まれる収穫量と、利用可能な資源(空気、水、養分など)の有効な活用ができるかどうかが制限要因となるだろう。

低重力が人体に及ぼす影響

人間は低重力下で生きるようにはできておらず、宇宙旅行者に低重力が及ぼす影響についてはさまざまな研究が行われており、十分な量のデータが蓄積されている。

無重力や微小重力に初めて曝されると、多くの人は、めまい、方向感覚喪失、吐き気、そして嘔吐を経験する。

人体の内耳にある前庭神経系は、視覚や聴覚などの知覚と連動して、平衡感覚の維持を助けるほか、上下を区別したり、自分が動いている速度がどの程度かを感知するなどの機能に寄与している。

綱渡り、バレエ、アイススケートなど、感覚系統系が完璧に統合されていなければうまくできない曲芸や舞踏、スポーツなどができるのも、前庭神経系のおかげだ。

前庭はそのなかでも鍵となる重要な部分だが、無重力の環境では、前庭の働きが著しく乱される。人間の内耳のなかには耳石器があり、耳石器の内部には微小な毛と液体が存在している。

地球の重力環境では、人体が加速したり方向を変えたりすると、耳石器の内側にびっしり生えているこの微小毛の上に乗っている炭酸カルシウムの小さな石(耳石)が動き、微小毛がそれに連動することによって、耳石器全体を浸している液体が流動し、その刺激が感覚細胞を経て脳に伝わる。

その結果脳の持ち主は自分がどのように動いているかを知覚し、必要に応じてその動きを正す(前かがみになる、頭の位置を変えるなどによって)ことができるわけだ。

重力は微小毛の上に乗っている耳石を安定させる働きをする――振り子が定められた弧の上しか動かないのと同じように、重力のおかげで耳石は常に一定の方向を向く。ところが宇宙では、耳石を安定にしてくれる重力も、重力に基づく慣性も存在しないので、耳石は「漂い」はじめる。

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