人間は通常の重力がないところで過ごすと、1カ月当たり骨量が約1%低下する。負荷荷重がかかっていないと骨は強度を維持できない。
一方、骨強度は骨量に密接に関連している。必要な負荷荷重は、地球上なら単に歩いたり、走ったりなどの日常の活動を地球の重力の存在のもとで行っているだけで簡単に得られる。
一歩踏み出すごとに、重力で体が下に引っ張られるが、その重力がなければ、骨量と骨強度は低下してしまう。一歩ごとに重力が骨を圧縮して刺激する効果など、あまりに些細で気づかないものだが、それが骨を強化してくれているのだ。
私の携帯電話のフィットネス・トラッカー〔訳注 歩数、脈拍、消費カロリーなど個人の運動のデータを記録できるデバイスやアプリケーション〕によれば、私の1日当たりの歩数は6000から11000歩なので、私の骨は1日当たり6000から11000回刺激を受けており、おかげで必要な強度を維持している。
宇宙飛行士は、骨強度維持のために特別に設計された装置を使って、スケジュールにしたがって運動しなければ、骨強度が維持できるような刺激を受けることができない。しかし、それほどがんばっても十分とは言えない。弱くなった骨は折れやすい――骨粗鬆症の場合と同じだ。
骨粗鬆症は、宇宙飛行士が経験する骨量低下と同様の現象で、重力がないからではなく、加齢と、運動不足による骨の負荷不足によって、やはり骨強度が低下し、骨折しやすくなる病気だ。
宇宙飛行士は筋肉量も低下する
宇宙飛行士は筋肉量も低下する。これは、宇宙の無重力環境では、物体の質量は変わらないが、その重さはゼロになってしまうことを考えればわかりやすい。
重さは、物体に働く重力の大きさである。重力がなければ重さはない。私たちの日常生活を振り返ってみると、筋肉を使うときはいつも、何らかの重さを持ち上げていることがわかる。何を持ち上げるにしても、そのために使う筋肉には負荷がかかって筋肉は強化されるし、質量が大きな――したがって、地球上では重い――物体は、より大きな負荷を筋肉にかける。
宇宙においては、地球では当たり前のこのような負荷が筋肉にかかることはめったにないので、筋肉は劣化し、宇宙滞在11日めごろまでには筋肉量は20%も低下してしまう。
さいわい、無重力状態でもきつい運動を行えば筋肉量を維持することができ、ISSに滞在する宇宙飛行士は毎日2.5時間ものエクササイズを行って筋肉量低下を防いでいる。
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