何の対策もせず骨も筋肉も減るに任せておくと、筋肉量と骨密度/骨強度は著しく低下し、数十年、あるいは数百年にわたる深宇宙飛行を終えた人間が、外惑星に降り立つ際に巨大なリスクになりかねない。
筋肉量が低下したことに加え、前庭神経も系外惑星の重力にすぐには適応できないため、見知らぬ惑星の上を歩き始めたときに無様に転ぶだけでなく、骨折してしまう可能性も非常に高い。有人宇宙船の設計では、宇宙旅行で生じるこのマイナスの影響を緩和するための工夫が必要になる。
重力による加速を再現する
「大きく考える」――ここまでの話でおわかりいただけたとおり、これがあらゆる星間旅行の主題だ――なら、解決法は見つかる。
人間が重力とその影響をどう感じるかについて考えてみよう。まず、最近、車の運転でアクセルを踏んだとき、乗っている飛行機が離陸直前に滑走路で加速したとき、エレベータに乗っていたときのことを思い出してみよう――どの場面でも、あなたが経験した加速は、持続時間は長くなかったとしても、経験している最中はまるで重力のように感じられたはずだ。
その理由は、重力とは、加速されていることの影響を指して人間がそう呼んでいるものだからである。地球上で私たちが感じる加速は、地球の質量に引っ張られていることが原因で生じる。ほかの例では、速度が次第に高まることによって加速が生じ、それが力として感じられる。原因は違っても効果は同じだ。
このことがわかれば、筋肉と骨の劣化を防ぐアイデアも浮かびやすくなる。たとえば、重力による加速を再現できるようなペースで自転する巨大な居住空間を作れば、人体は骨強度と骨量を維持するために必要な圧縮力を受けることができるし、さらに、そのような環境では物体が重さを持つようになるので、重い物体を動かせば筋肉に負荷がかかって、筋肉の劣化も防げるだろう。
これまでに宇宙飛行士たちが宇宙で過ごした時間は限られているので、まだ知られていない長期的な影響がほかにもいろいろあるに違いない。
これまでのところ、ロシアの宇宙飛行士ワレリー・ポリャコフが1995年から翌年にかけて樹立した、連続宇宙滞在438日という記録よりも長期間連続で宇宙で過ごした者は誰もいない。
(翻訳:吉田三知世)
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