iPadが後でiPhoneが先だったということではなく、iPhoneはiPadだったのです。iPadに既知の要素を加えて姿を変えたのがiPhoneになったのです。真ん中にiPadという未知のものがあり、外側に既知の要素を加えたものがiPhoneなのです。
「差別化」とイノベーションは逆のモノ
一般的に見れば、iPhoneは従来の経営戦略論で言われている「差別化」を図ったと考えられるかもしれません。しかし、その内実は、まったくの逆です。差別化は、真ん中が同じであるのに対して、外側に違うものを加えます。違いがないから、無理やり外側に違いを加えるのです。しかし、Appleが行ったことは、真ん中が違うものに対して、外側に同じものを加えています。これは、差別化戦略とイノベーションの違いと言ってもよいかもしれません。
外側に既知のものが加えられ、人々が「あ、知ってる!」と手に取り経験を積むことで、未知であったものまでもが既知に変わっていきます。そして、既知となり世の中に浸透が図られた時点で、もともとの「未知」だけに削ぎ落としたもの(iPhoneから電話という既知の要素をそいでiPad)を世に送り出したのです。すると、人々は「あ、知っている!」と受け入れることになります。
ジョブズ氏が本当に世に送り出したかったのはiPhoneではなくiPadだと言われています。iPadによって旧態依然とした教育現場を変えようという情熱を持っていたそうです。
本当の目的からみると回り道をしているように見えますが、iPhoneが世の中に存在していないタイミングでiPadを投入したら、一部のデジタルガジェット好きは購入するかもしれませんが、教育現場で受け入れる人はごくわずかだったでしょう。時間をかけて未知を既知に変え、満を持して届けたのです。
このことは、現在の教育現場でのiPadの普及を見れば、そのインパクトが確認できます。「回り道をしている間に、競合が表れ、先を越されたらどうするの?」という疑問を持つ方もいると思います。しかし、その疑問は、現実にはならないでしょう。
iPhoneのように、未知であったものが既知の姿をまとって市場に浸透すると、競合企業が、当然、追いかけてきます。ただし、追随はたいてい“同じ分野の中で”行われます。iPhoneの後に、多くのスマートフォンが世の中に現れたのがそのことを表しています。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら