しかしiPhoneはもともとiPadでした。分野が違います。競合は「電話」であると認知しているため、電話には電話で追随してきます。分野が違うタブレットを、先んじて出すことは考えられません。競合にとってはノーマークと言えるでしょう。この一連のやり方は、競合を寄せつけないという点も重要な特徴と言えます。
宇宙人を地球に溶け込ませるには、言い換えるとまったく新しいものを市場に浸透させるためには、多くの人々にとって、「知っているものに、新たな要素が加わった」という理解をしてもらうことが必要です。なぜなら、誰もが「知っていると思うことで安心したい」という気持ちと、「新しいものを知って満足したい」という反対の気持ちを同時に持っているからです。人々は保守的であり、革新的でもあるのです。
自信を持って作り上げた革新的製品であればあるほど、その価値がわからない保守的だと思われる人は放っておきたくなることでしょう。しかし、保守的な人を放っておいては、一部の革新的な人にしかその製品は買ってもらうことができず、結果的にビジネスは継続できなくなります。革新的なものに価値を感じる人に製品をしっかり届けるためにこそ、保守的な人にも届け、収益を確保しておく必要があるのです。
未知の製品の届け方
課題を解決してあげたい人をAさんとしましょう。iPadの場合、教育現場の人ですね。課題解決するために作られた革新的製品をB(iPad)としましょう。
BをAさん(教育現場の人)に届けると、未知なものに抵抗を感じないほんの一部の人にしか届けることができません。そこで、Bを見たとき、Aさんよりも抵抗を感じない(まったくの未知とは感じない)Cさんを探します。AppleでいうとiPadが備えた機能をもった携帯端末を面白いと感じてくれて、しかも、インターネットを使うことに慣れた人ですね。Cさんに対して、B(iPad)にCさんが慣れ親しんだ「携帯電話」という要素を加えたものをB’(iPhone)として開発し、届けることとなりました。
未知の製品を届けるためには、対象者をより適切な層にシフトし、その層が慣れ親しんだ既知の要素を加えることがカギとなります。この考え方を、私はABCB’モデルと名づけています。
3回にわたって、新たなアイデアを生み出し、世の中に伝えるための考え方をご紹介しました。そして、もうひとつ、大事なことがあります。考え方だけでなく、マインドセットと呼ばれるものです。「わかっているけれど、できない」ということは、多いのではないでしょうか。
次回はその背景にあるハードルについてご紹介して、連載を閉じたいと思います。
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