ブラック組織からの逃げ方まで指南している易経 「君子豹変」「虎視眈々」日常に潜む古典の言葉

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ここにおいて我々は、『易経』が説く変化を貫く法則と、自分を変えて変化の波に乗る方法とを知ることができる。

「旭化成」「資生堂」と易経

まず、世界の変化は人間から見て良いことも悪いこともあるが、それらは全て生成発展のために起きている。これが変化を貫く法則である。

しかし、人間は社会通念や成功体験に執着し、表面上の良し悪しにとらわれて、そうした変化を活かすことができず、また不要な手出しをしてかえって状況を悪化させる。これは法則からはずれた考えや行為であり、ここにおいて、いきづまりや破滅が起こる。

これを回避するためには、立場や役割になりきることで、社会通念や成功体験を忘れ、今、目の前に必要なことに淡々と取り組む必要がある。この時、周囲の変化が生成発展の一場面として見えてきて、柔軟に自分を変えていくことができる――こういうことを言うと、破綻した家庭やブラック企業を持ち出す人がいるが、『易経』にもわざわざ暗黒時代の組織からの逃げ方について書いているから、この場合の立場は「自由になる」、役割は「とにかく逃げる」である――。

これができると、表面上の感じ方や考え方が変化しても、他者から見て、ゆるぎない「個」、一貫した事業として認められ、人生や組織を生成発展させられる。これが自分を変えて変化の波に乗る方法であり、『易経』は運不運のヴァリエーションを網羅して示すことで、一々恐れず、それらを資本にできるよう整理した。

このことを知っていたのは高島だけではない。

近代の日本人は『易経』に親しみ、さまざまな場面にその言葉を刻んだ。

企業名で言えば、「旭化成」の「化成」は「万物は適切な居場所につくことで、世界を変化成長させる」から来ており、化学が社会を生成発展させる様子を表現した。「資生堂」は「大地の徳は偉大なるかな。万物はそこからあらゆる資源として生まれる」から来ており、西洋の薬学に東洋的な自然重視の観点を含みこんでいる。

こうした企業は、時流の変化に伴う業態の変化に対し、『易経』の理念を提示することで、社会の生成発展に参加しようとした。

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