「AI学んでも前途多難」大学教員を諦めた彼の本音 就職には困らない一方、大学に残るのは狭き門

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こうした状況は、国の大学政策が作り出したものでもある。2004年の国立大学の法人化以降、国立大学の運営費交付金が10年間にわたって削減され、多くの大学で人件費に皺寄せがきたと言われている。

さらに、1996年度から2000年度まで実施された「ポスドク1万人計画」も、結果的に大学教員への道を狭めることになった。若手教員のポストは減少しているのに、ポスドクが増えたことで、30代後半になっても正規採用の教員になれない人が増えてしまった。

加えて高山さんは、若手教員ポストの待遇にも疑問を持っている。

「待遇面を考えて、大学に残る道よりも就職を選ぶ人は少なくないのではないでしょうか。仮に助教で大学に残ったとしても、企業に就職する場合に比べると、待遇面でも大きな差があると思います。

もちろん、一概に大学が悪いというつもりはありません。教員のキャリアや待遇面を改善する取り組みも進んでいますし、金銭面の支援制度もある程度は充実しています。それでも、もっと研究を極めたいと考えていても、最終的に就職を選ぶ人が多いのが現状だと感じています」

自分のアイデンティティが確立できる

博士課程への進学や修了後の状況は、文系と理系、研究分野の違いによって状況は違う。文系の場合は、そもそも博士前期課程、修士課程への進学率が高いとはいえない。この連載で前回触れたように(過去記事:「文系学生は門前払い」就活に苦しむ院生の嘆き)、文系で修士で卒業したからといって、就職に有利には働かないのが現状だ。

高山さんが研究している人工知能の分野は、キャリアを考えるうえで条件のよい分野の1つと言えるだろう。しかし、高山さんは博士後期課程で学ぶことのメリットは、もっと別のところにあると実感している。それは、研究を通して自己のアイデンティティを確立できることだ。

「研究が世の中の役に立つことも非常に大事なことで、考えなければいけないことだと思います。けれども、それとは別の視点で見ると、20代前半から後半にかけての頭の回転が速い時期に、専門分野を決めて全力で研究に取り組むことも、今後の人生を考えるうえでは重要なことではないでしょうか。

1つの分野を極めていくことは、自分はどういう人間なのかという問いの答えを得る一つの方法です。自分のアイデンティティになるものが得られます。アイデンティティが確立することは、今後の人生を歩んでいくうえで大きな支えになり、人生を豊かにしてくれると思っています」

博士課程に進む人が少ないのは、将来キャリアや経済的な状況など、大学院生が抱える不安が背景にある。それでも、9年にわたって大学と大学院で学んできた高山さんは、博士課程で学ぶ意義や価値を感じている。研究力の向上を叫ぶのであれば、誰もが博士課程進学に挑戦しやすい環境づくりが今以上に必要ではないだろうか。

田中 圭太郎 ジャーナリスト・ライター

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たなか けいたろう / Keitaro Tanaka

1973年生まれ。1997年、早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年からフリーランスとして独立。雑誌やWebメディアで大学、教育、経済、パラスポーツ、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)、『ルポ 大学崩壊』(筑摩書房)。

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