「好きなこと」がわからなくなった
「今この瞬間、何を食べたいのかもわからない」
松尾さんは自らの状態に戸惑っていた。新卒で入ったのは、就職人気ランキングでも毎年上位に入る大企業。配属されて決まった住宅相談アドバイザーや広告制作の仕事は、やりがいを持って取り組める……はずだった。
学生の頃は世界一周をしたり、休日には古着屋めぐりをしたりと、やりたいと思ったことをどんどん行動に移していた松尾さん。しかし、社会人としてがむしゃらに働くうちに、好きなことに触れる時間がなくなっていた。
「だんだんと、『好きなこと』という感覚も失っていきました。レストランに行っても、自分が何を食べたいのかもわからないんです」
職場がいわゆるブラックな環境だったわけではないという。松尾さんが力を発揮できるように考えてくれた上司や同僚もおり、実際、松尾さんも成果を出していた。しかし、上司から褒められても、松尾さん自身が自分を受け入れることができなかった。
「褒められても、『そんなことないです』といつも返していました。周りを見渡せば、もっと成果をあげてる人はいるわけなので。『自分は他人より能力が低くて、社会では役に立たない』と、ずっと思っていましたね」
「自分は能力が低いんだ」という思いが、松尾さんをがむしゃらに仕事に向かわせていた。
そんな折、恋愛でつらい別れを経験する。それも、かつて別の恋人と経験したものと同じような別れ方。「恋愛がいつも同じパターンで終わるのは、自分に何か問題があるんだろうか?」。そう疑問を持った松尾さんは、自分の心の仕組みについて知るために心理学の講座に通うことにした。
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