品川駅のホームでの出来事から、およそ2年後。松尾さんは5年半勤めた会社を辞めた。やりたいことの輪郭が見えてきたこともあり、フリーランスとして働くことを決意したのだ。
しかし思いがけないことに、取り組む予定だった業務の開始が延期になり、すっぽりとスケジュールが空いてしまった。そんなとき、もともと「一旦すべての役割から離れて、もう少し幸せの仮説検証をしたい」という気持ちがあった松尾さんが思い出したのが、ある知人から聞いていたフォルケホイスコーレの存在だ。
フォルケホイスコーレは、デンマークを中心とした北欧にある全寮制の学校。17歳半以上であればだれでも入学することができ、3カ月〜1年ほどの期間、生徒や先生と共に暮らしながら、自分の興味関心に従った領域について学ぶことができる。学べる領域は、アートやデザイン、哲学、福祉、農業やスポーツなど幅広い。
2カ月間、デンマークへ
試験や成績など、評価される仕組みがないのも特徴で、高校卒業後にギャップイヤーを過ごす若者から、しばらく働いた後にキャリアの見直しをしにくる大人など、年齢も国籍も価値観も異なる人々が集い、学び合う場になっている。
「この環境は、幸せの仮説検証にぴったりかもしれない」と考えた松尾さんは、2カ月間デンマークのフォルケホイスコーレに行くことにした。
フォルケホイスコーレでの日々は、松尾さんの価値観を揺さぶるものだった。「大学での専攻は〇〇でいいのかな」と興味を探索している人、木こりをしていたけれど哲学者になろうと思い始めている人、生徒の前で自分の政治観を高らかに語りディスカッションを楽しむ先生……さまざまなバックグラウンドを持つ生徒と先生が、年齢も立場も関係なく、フラットに関わり合う。
朝、歌を歌ったり少し話をしたりする朝礼を終えて、授業。授業は1コマ2〜3時間で、興味のあるものを受けることができる。「せっかくならやったことがないことをやろう」と思っていた松尾さんは、演劇のクラスやダンスのクラスにも挑戦した。
授業の合間には、ラウンジで友達とおしゃべりをしたり、トランプをしたり、体育館でバドミントンをしたり、部屋でぼーっとしたり。寝食を共にする生徒や先生たちとは、将来のこと、恋愛のこと、政治のこと、環境のことなど、たくさんのことを話した。
今振り返れば、フォルケホイスコーレは「幸せの仮説検証」にぴったりな場だったという。
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