ウクライナ支援はアジアに悪影響をおよぼすのか 「欧州重視」対「インド太平洋重視」の誤った前提

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7月11-12日にリトアニアの首都ヴィリニュスでNATO首脳会議が開かれた。ゼレンスキー大統領はバイデン大統領やスナク英首相らと会談した(写真:ロイター/アフロ)

【連載第4回:ウクライナ反転攻勢の行方】

ウクライナが反転攻勢を本格化させるなか、7月11-12日にリトアニアの首都ヴィリニュスでNATO(北大西洋条約機構)首脳会議が開かれた。焦点となっていたウクライナのNATO加盟問題では大きな進展がなかったものの、武器供与を柱とする長期的な支援へのコミットメントが示された。

他方で、アメリカによるウクライナへの関与強化に対しては、中国への対処に悪影響が生じるとの批判も提起されている。端的にいえば、対処すべき脅威・挑戦として、ロシアと中国のどちらを優先するのかという問題である。アメリカのリソースが有限である限り、トレードオフが存在することは否定できない。

これは、ウクライナに深入りせずに、中国への対処を優先すべきだとの議論につながる。しかし現実の世界はより複雑で、こうした議論の前提にはさまざまな誤解や不明確な点が存在する。順にみていきたい。

なお、当然のことながら、欧州とアジア、ないしロシアと中国への対処のトレードオフは、有事が同時に発生する場合により深刻になる。ただし、有事の発生に関してすでに時差が生じている。台湾への武力侵攻が明日にでも行われそうな状況でもない。

そうした現実を踏まえ、以下では、2つの地域での有事が完全に同時には進行せず、一定の時差が存在する想定で議論を進める。もっとも、ウクライナにおける戦争が長期化する場合には、2つの地域の有事の発生時期が重なる危険性が上昇することになり、そのことが、アメリカにとって今回の戦争の長期化を回避する動機になっているのも事実である。

過剰なのはウクライナ支援かNATO防衛か

アメリカの欧州への関与が過剰になり、それが中国への対処に悪影響をおよぼしていると主張される場合にしばしば不明確なのは、やりすぎているものが何かである。

最も注目されるのはウクライナ支援だが、アメリカの同盟であるNATOにとってより重要な任務は加盟国の防衛であり、2022年初頭以降、アメリカは2万人から4万人もの増派を欧州に対して実施している。

バイデン大統領も、アメリカ軍をウクライナに派遣することはないと強調する一方で、NATO諸国の領土については1インチたりとも譲らないとの姿勢を明示してきた。

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