【連載第3回:中国を取り巻く国際秩序】
政権発足から1年が経った韓国の尹錫悦政権は、大統領選挙公約で掲げた外交路線を、スピード感を持って実践してきた。その方向性は、自由や民主主義、法の支配、人権といった普遍的価値を重視し、価値を共有する国々との連帯を強化する外交の推進である。
尹大統領は、昨年5月の就任演説の冒頭で、「この国を自由民主主義と市場経済体制を基盤として、国民が真の主人である国に再建し国際社会で責任と役割を果たす国としなければならない」と述べた。
「再建」という言葉には、文在寅・前政権でそうした基盤が揺らいだとの批判が込められていたと言える。尹政権の支持基盤である「保守」と文政権を支えた「進歩」という2つの陣営間の対立が先鋭化する中、与野党の政権交代は韓国の政治・外交路線に大きな振幅をもたらした。
視線は朝鮮半島からグローバルへ
実際、大統領選挙を控えた昨年2月に、尹候補(当時)はアメリカの外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』への寄稿で「韓国にいかなる政権が誕生しても北朝鮮問題は重要ではあるが、それが韓国外交のすべてではない。(中略)文在寅政権になり南北対話それ自体が唯一の目標になってしまった。米中関係の緊張が高まる中、韓国は原則ある立場を示せずに戦略的曖昧性で一貫してきた」と文政権を強く批判した。
そのうえで、「韓国の外交はこれ以上朝鮮半島にとどまっていてはならない。自由主義の価値をもとに実質的な協力を通して世界の自由、平和、繁栄に寄与する『グローバル中軸国家』(Global Pivotal State)にならなければならない」との立場を表明した。
この1年間、尹大統領は選挙時の公約に則った外交を展開してきた。就任まもない昨年5月にはアメリカのバイデン大統領をソウルに迎えて米韓同盟の強化をアピールしたし、6月にはNATO拡大首脳会議に出席してNATO代表部の設置を決めた。その際に日米韓首脳会談にも臨み、日韓関係の改善と日米韓連携に強い意欲を見せた。
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